第12話『図書分室・1』


やくも・12『図書分室・1』    






 学校に図書分室というのがある。




 図書室と言うのは、本だけじゃなくて、いろんなものがある。


 視聴覚機材という括りになっていて、スライド映写機とかスクリーンとか、古いパソコンとかビデオカメラとか、なんだか分からない機材とか。そういうのを保管している倉庫みたいな部屋。


 その図書分室に古い本を持って行ってほしいと頼まれた。


 頼んだのは霊田(たまた)先生。


 頼まれて、やっと名前を覚えた。


 眼鏡のオールドミス。この先生は図書部長で、委員会で一度顔を見ただけ、一度見ただけで、あまり関わらない方がいいと思った。先生も必要最小限しか言わないタイプのようで、今日呼び出されるまでは口をきいたことがない。


「適当に片しといて。あの台車使って……」


 本の山と台車を指さしておしまい。泣きたくなるほど素っ気ない。


 泣かずに済んだのは相棒が居たから。


 相棒は小桜さん。先週、小桜さんは四日連続で休んでいた。四日の内三日が図書の当番に当たっていた。


 なんの因果か、三日間とも、わたしが小桜さんの穴埋めをやらされたんだよ。


 先週はごめんね……言うかと思ったけど言わない。


 ま、穴埋めやったのがわたしだってことも知らないのかも……霊田先生も言ってくれりゃいいのに「小泉さんが当番代わってくれたのよ」ってぐらいはね。


「とりあえず」 


「階段」 


「分室の前」 


「運んで……」


「から……」 


「入れる」


「うん」


「うん」


 散文的な会話して、いよいよカチャリ。分室の扉を開けて運び込む。



 かび臭ぁぁぁぁぁ



 かび臭さを共感して、それでも、それ以上の会話はしない。


 かび臭い上に散らかっている。どちらが言うともなく奥の方を片付けて百冊余りの本を積み上げる。


 これなんだろう……口に出したわけじゃないのに、同じものを見ている。


 ニス塗りの黒褐色の木の箱、大きさは給食のパンの箱を二つ重ねたぐらい。


 親しかったら「なんだろうね」くらいは言うんだけど、無言のまま。


 これが、他のみたいにホコリまみれなら、手を付けなかったけど、この箱だけが普通だ。何かが上に載っていて、片づける時にどけたのかもしれない。それに、長い方の端に掛け金があって、それを外したら簡単に開きそうだったし。


 カチャリ


 簡単に掛け金は外れて、上の蓋を開ける。


 

 なにこれ?



 二人の声が揃う。


 それは、一瞬だけど巨大なスマホに見えた。


 


 

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