最終話 摂理をぶん殴れ (8)ラストバトルは呆気なく

 レイの作戦はこのようなものであった。


 まず、ブレイドがドミネアを倒す。


 最もハードルが高いのは彼女も理解していた。だが、彼女はブレイドならば出来ると信じ、彼に託した。


 だがそれが為せたとしてもドミネアは死なない。正確には、ドミネアが死ねばブレイドも死に、ドミネアは魔界の軍勢が恐らく再生させるだろう。


 それを防ぐために、ブレイドがドミネアを倒す直前に、ストレアがバグを具現化し、ライフ共有のバグを取り除く。突然バグが具現化する事で、ドミネアの隙を生じさせ、結果としてブレイドのサポートにもなるだろうという予測もあって、タイミングはこの瞬間を狙うという事で落ち着いた。


 だが、ただ殺しただけでは、ライフ共有バグがなくなったとしても、魔界の軍勢による再生という可能性は残る。


 それを潰し、そしてミアとミカが二重人格か何かだとして、彼女らを救う方法として、魂分すぷりっとを使う。この技には本来であれば材料となる肉体が必要である。その肉体として、ドミネアの体を使うのだ。


 そうすればドミネアは再生出来ない。そしてミアとミカが分かれる。もしミカが無罪なら、ミカを救う事にも繋がるし、何にせよバグの解除にも繋がる。まさしく一石二鳥のアイデアだった。


 これを実現するには、ブレイドの奮闘が欠かせなかった。


 それはトマ主教とゴウのフォロー、そして人々の祈りで為す事が出来た。


 まさしく勇者だ。レイは心の底から感服していた。




「これは……私が二人……違う。ミア、か?」


 先程までレイと交戦していた方のミアが、もう一方のミアの方を見て言った。


「この傷……ドミネア様の体……!!まさか、そんな!!」


 もう一方のミアは自分の肉体を形成しているものが他者の、ドミネアのそれである事に愕然していた。


「私が肉体の持ち主のはず!!私が神に選ばれた存在なのに!!何故私の肉体をミカが使っている!?」


 ミアと思われる方が、ミカと思われる方に、取り乱した様子で叫んだ。


 レイは答えを認識していたが、何も言わず、ただ「言ってやれ」という目でミカの方を見た。


「……思い出せ。私とお前、どちらが先に同居に気付いたか。


 ーーやめろ。


 ミアの無意識が叫んだ。


「私の時は老化し、お前の時は老化しない理由は何故か。」


 ーーやめろ。


「魂牌流を形にしたのは私だ。お前は私の知識を使っただけだ。何故か。」


 ーーやめて、くれ。


「お前が異物だからだ。元々この肉体は『ミカ・デュルーア』、即ち、私の物だった。お前はただ、私の肉体を借りていただけに過ぎない!!」


「違う!!私がオリジナルだ!!私が!!私が!!神に愛された女だ!!」


 ミアは立ち上がりながら叫ぶと、構えを取った。


「なんだそれ。」


 レイも知らない構えだったが、ミカには覚えがあった。


「それは……やめろ!!」


 ミカはミアに対して叫んだ。


「ミカ!?」


「それは対象の人間のステータスをコピーし、1だけでも上回るようにする、強敵への対策となる最終奥義、魂複製こぴーだ!!」


 それを聞いてレイはミカが止める理由を理解した。


「それはやめとけ。自殺行為だ。」


「ははははは!!今更命乞いですか!?」


「お前のために言っているんだ!!それはステータスの一時変動ではなく、とにかく自分の肉体を対象の人間に合わせる、強制成長技!!それをやれば自身の肉体はズタズタになる!!一瞬だけで燃え尽きる、流星のようなものだ!!」


「いや、そういう意味ではなくてな?」


 レイの言葉はミアには届いていなかった。


「流星で結構!!貴方達、貴方達だけは許しません……!!特にレイ、貴方の存在は、私を惨めにさせる!!貴方のステータスを借りて、貴方の力で殺してさしあげます!!」


 レイはミカの肩に手をやり言った。


「放っておけ。」


 降りてきたストレアもそれに同意した。


「そうよ。やらせておきなさい。」


「しかし!!」


「覇ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ミカの焦りとは裏腹に、ミアの技は発動しーー





「……………………ん?」


 ミアは溢れんばかりの力を得たと思った瞬間、急に体が重くなった事に気がついた。


 違和感がある。何か浮遊感がある。どうにも、地に足がつかない感触を覚えた。


「あれ?」


 ミアはその足を見た。


 無かった。


 足が無かった。


「へ?」


 ミアはきょとんとした顔で前を見た。


 ミカが驚いた様子でミアを見つめていた。


 レイとストレアが「あちゃー」という様子で頭を抱えていた。


「なあストレア。4294967295に1を足すとどうなる?」


 わざとらしい声でレイが言った。


「0よ。オーバーフローするから。」


 またわざとらしい声でストレアが答えた。


「0になったらどうなる?」


「全部のステータスが0なのは魂だけ。つまり魂になる。そーいう仕様よ。」


 レイとストレアは実例を見ていた。


 かつてコズドー鉱山にいた、いや、今もいるかもしれない、ユウという名の元魂を。


「魂になったらどうなる?」


「転生する。例えば、ゴーストに。」


 そこでミアとミカは理解した。


「え。じゃあ、なんですか。今の私は、その。」


 今までの勇ましい声とは全く違う、ぼけぼけとした声で、ミアは問うた。


「そういうこった。お前は今、ゴーストに転生しちまったんだよ。」


 ふわふわと浮く、魂の実体物、ゴースト。


 それと化したミアは嘆きの叫びを上げた。


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

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