第8話 教会の連中をぶん殴れ(4)
スキルというものがある。
それは様々な技術、人や自然が編み出した秘術、それらを魔力により自然的なシステムとして組み込んだものである。難しい言い方をした。要は「昔の人が生み出した技術を簡単に使う事が出来ます」というシステムである。
スキルを習得する事で、その技術を魔力を消費する事で使用出来るようになる。勿論、腕で覚える事も出来る。ただしそれには時間を要する。オレの魂牌流奥義のように。スキルはスキルポイントという、成長に応じて取得するポイントを消費する事で習得する事が出来る。逆に言うと、スキルの習得に必要なのはそれだけだ。スキルポイントさえあれば、例えそれまで魔法の勉強をしてこなかったものでも魔法を使えるようになる。便利なものだ。
スキルとして習得出来るのは、公開された技術だけだ。ストレアによると、特許のようなものだという。一般に公開、正確には色々な儀式的作業が必要なのだが、それを行う事で公開された技術だけが習得出来るのだと言う。特許がよく分からないので何も言えないが。
そのスキルの中にはステルスというものもある。元盗賊の人間がスキル化したと言われているが、これは他人に発見され辛くなるスキルである。気配を消し、音を消し、自分がそこに居ると感じさせなくする。技術として身につけるには時間がかかるが、この世界にはスキルシステムと、オレにはアホみたいな莫大な量かつ変動しないスキルポイントがある。
「それを使って乗り込むという事か。ふむ。それは確かに良いと思う。」
「でもそれだとお姉様しか乗り込めませんねぇ。」
「んじゃこれ持っていきなさい。」
そう言ってストレアは変な薄い箱を渡して来た。表面には何やらボタンのようなものが書かれているが、絵だけだ。
「何これ。」
「スマートフォンの改造版。アタシが作ったスマートフォン、名付けてストレアフォンよ。」
「まんまじゃねぇか。というかスマートフォンってなんだ。フォン?本かこれ?開くのか?」
「開かないわよ。あーもう、これだから原始人は。」
うるせえ。
「まぁ未来の便利グッズみたいなもんだと思ってくれればいいわ。アタシが普段使っているものと同型のをこの世界でも使えるようにしたの。アンタにあげる。感謝なさい。」
「ありがとう。いやでも、この板何に使うんだよ。」
「いい?まずこれ。一つ目のアイコン…‥ああっ、もう!!」
オレが「アイコンってなんだ?」という顔で見つめていると、ストレアは心底面倒臭いという顔で舌打ちをし、色々と説明をし始めた。
技術水準が違いすぎるせいで良く分からないが、最低限覚えておけと言われたのは次の三つだ。
・録音:最大二十四時間、押してからオレの周りの声を記録する、らしい。
・撮影:百枚以上の写真が撮れる、らしい。写真というのは、この画面に写る映像を絵として記録する事が出来るのだとか。
・通話:離れた場所でもストレアと会話出来る、本人曰く大変有難い機能。要らない。
「他にも色々あるけれど、とりあえずはこれだけ覚えてればいいわ。うん。」
ストレアがうんざりしたという顔で言った。
「何も分かってない奴に説明するの大変だわぁ。」
「悪かったなぁ、どうせオレは原始人だよ。」
「ランも分からないですぅ。」
「なかなか、その、難しい、のだな。」
巫女様もランも全員分からなかったらしい。
「知識レベルというものが違うのね。アンタ達とアタシのような……神!!創造神と比べれば!!アンタ達の知能なんて地の底!!塵屑以下という現実を理解すると良いわァーッ!!」
ストレアが完全に見下すように吠えた。オレ達は無視した。巫女も。どうやらこのアホがどういう人間か、いや神か、分かったようだった。
「まぁ、便利なものだという事は分かった。使わせてもらおう。」
「ランも御供したいですぅ。」
「気持ちだけで十分だ。留守番みたいになって悪いが、お前はここで巫女さんを守ってくれ。」
「わっかりましたぁ!!」
「アタシは?」
「どうでもいい。死なないし。その辺でゴロ寝でもしてろ。」
オレはそう吐き捨てて、ステルススキルで姿を消して跳躍した。
下では地団駄を踏むストレアと、それを宥める巫女の姿が見えた。すまんな、苦労かけて。
ステルスは自分と相手のDEX・AGI・LUKに依存して発見される/されないが決まりやすい、と言われている。
オレの場合は当然のように全く見つからない。誰かに見つかるのでは、という不安は勿論あったが、目の前で止まっても全く気付いていないようだった。どういう仕組みかは分からないが、どうやら相手の注意が、前を向いているようで横を向いている、というような状況になるらしい。理屈は分からないがとにかく楽だし、気が軽くなる。
無論完璧というわけでは決してない。自分から音を立てれば、そこからバレる可能性は上がる。なので音だけは立てないように細心の注意を払いながら、城内部を進む事にした。
城門の外から見えた光景よりも、実際の光景は陰惨だった。元々城を警護していたであろう兵士の死体が至るところに残っている。教会による乗っ取り、革命と言ってもいいだろうか。それがつい先程の出来事であった事を否が応にも理解させてくる。これを本気で巫女が殺害されたから行ったとするのであれば、理解出来なくはない……が、証拠があってやったのだろうか。そうでなければ間違いなくやりすぎだろうと思うほどには、兵士達の死体の数は相当なものであった。
そうした死体を見ながら話している教会騎士の背後について、その会話を聞いてみる事にした。一人は先程門の前で槍を砕いたやつだった。
「なぁ、どう思う。」
「どうって、何が。」
「巫女様。さっきの。本物だと思うか?」
「……正直、分からん。本物に、見えはした。だが、だとすると。」
「いや、そこは言うな。もう既に起きて、いや、やってしまった後だ。取り返しはつかない。」
「……そう、だな。それに、主教様が言うんだ。間違いは無いだろう。……間違いがあってもらっては困る。」
「まぁ、な。」
主教、か。ドミネア教については詳しくないから何とも言えないが、多分偉い人なのだろう。
そいつについて調べてみよう。オレは兵士達の背中を後にし、王の間を目指した。偉い奴というのは大抵そういう場所に居そうな気がするし。
オレは恐らく王の間に続いているであろう赤いカーペットーーーこれは比喩ではなく直接的な意味でーーーを辿り城の中を進んでいった。
王の間では二人の男が口論していた。
「巫女様を見たという目撃証言があったと聞いています。本当に貴方が見たのは巫女様の死体なのですか?」
「トマ司祭。わしの目を疑うのかね。」
「そういうわけではありません。マクア主教。ですが、貴方が行ったこの国家転覆、あまりにも大きな出来事です。そう簡単に許されるものではありません。確たる証拠がなければ、いえ、あったとしてもーーー」
「そんなに気になるなら教会の棺を見てきたまえ。あまりにも酷い姿に、わしは数日口を開く事も出来なかった。ああ、おいたわしや、おいたわしや……。」
「死体が見つかったのは昨日と聞いています。本当に貴方は見たのですか?それに、もし見たとしても、国王が殺したという証拠はあったのですか。」
「無論だ。目撃者が居る。そもそも貴様はなんだ?何の権限があってそのような事を言っておる?わしを裁くつもりか?何様のつもりだ。」
「私はただ、そこに不義が無かったかを危惧しているのですよ。マクア主教。貴方はここ数年、デイドリー王との仲が良く無かったという噂を耳にしています。」
「疑っているのかね?」
「先程も申し上げた通り、不義が無かったかを危惧しているだけです。貴方は裁判も早々に切り上げたと聞いています。」
この国には裁判所がある。裁判は国教であるドミネア教に照らして行われる。つまり主教が介入する余地は残っているという事を意味する。
「そのような事許されるものではありません。」
「……貴様にそれを決める権限は無い。ドミネア教の主教はわしだ。そして国王という身でありながら巫女様を殺すという大罪を犯した国王、そしてその一家。裁けるのはわしか、わしよりも上に居る者、即ちドミネア神のみだ。」
「……そうですか。」
そう言ってトマ司祭と呼ばれた彼は王の間を後にした。
彼が部屋を出てから、マクア主教と呼ばれた方の男が溜息を吐いて、王の座っていたであろう豪華な椅子に腰かけた。
「奴も消さねばならんか。全く。変に嗅ぎつけおって。」
あーあ。もうこの一言でコイツが悪だと分かってしまった。だがオレはコイツと違う。ちゃんともう少し証拠を探そう。
オレはトマ司祭の方に着いていく事にした。彼は先程の会話から言って、この状況に何かしら思うところがありそうだった。それに死体を確認しようとしていた素振りもある。彼に着いていけば情報が得られる気がした。
彼は教会へ入り、そこにある棺を覗き込んだ。
「ああ、うむ。やはり、か。」
彼はそう言うと考え込み始めた。
バレないように気をつけながら、横からそれを覗き込むと、そこには焼け焦げた死体が眠っていた。燃やされたのか、顔が爛れて生前のそれが判別できない状態になっている。
「これでは顔が分からん。……どうやって巫女と判断したのだろうなあ。」
彼は嫌味を込めた口調で独り言を呟いた。オレも同感である。
「……神よ。我らを助けたまえ。」
彼は跪き、棺の後ろに聳えるドミネア神の像に向けて祈りを捧げ、そして去っていった。
さて、どうしたもんだろうか。
とりあえずオレは棺を開けた。顔は判別出来ないだけでなく、服も着せ替られたのか、修道士の服を着ていた。体型自体は確かに巫女らしき彼女に近しいものがあった。……この人が本物なのか。それとも。
だがそれを確定させるために再生させるのも、オレには出来ない。利用出来るものは利用するというのがオレのスタンスだが、とはいえ利用して良いものと悪いものがあると思っている。命はまさに後者だ。
「なら、利用出来るものを利用するとするか。」
オレはある場所に向かい、そして平原へと戻った。
平原では何人もの教会騎士達がとっ捕まっていた。
「ドラゴン……ドラゴン怖い……。」
紐で縛られた騎士達が口々に言っている。
「ランを舐めちゃあいけませんよぉ。」
留守番の役目、確かにやってくれたようだ。
「あ、お帰りなさい、お姉様ぁ。」
「ただいま。」
「何か分かった?」
「うーん。まぁ、明日になったら分かるんじゃないか。」
オレはそう言って、ランと巫女様が用意してくれていた野宿の寝床についた。
「私についてはどうだっただろうか……。」
「それも多分明日には何かしら得られると思う。」
「明日ってどう言う事よ。というかアンタ、ストホは?」
「ストホ?」
「偉大なるストレア様の作り出したマーベラスでアメイジングなスマートフォン、略してストホよ。」
「アホがアホな事を言うなアホが悪化するぞ。ああ、それならーーー」
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