第6話 幽霊をぶん殴れ(1)
「またねーお姉ちゃーん!!」
「ありがとうございました。本当に。」
「ああ、嗚呼、漸く、漸く帰れた……。」
陸地が見えた頃、喜ぶ者、涙する者、悲喜交々の声が聞こえてきた。子供達がオレ達に向けて手を振っている。
「ああ、またなー。」
そう言ってオレ達は港から少し離れた場所で止まった。そして二隻の船が港に入ったことを確認してから、近くの砂浜、人々の姿が無い場所へと降り立った。
「ふぅ。空を飛ぶのは気持ちいいですぅ。」
「お疲れさん。ありがとな。」
「いえいえぇ、お姉様の為ですからぁ。」
ランとオレがそんな掛け合いをしている中、一人砂浜に五体投地している女が居た。
「うげぇぇぇ……。」
「また酔ったのか。」
「吐かなかったことだけは褒めてあげますぅ。」
「疲れで……目が……。」
「今回ばかりはお疲れ様って言ってやるよ。」
二隻の修復を瞬時に出来たのはこいつのお陰だ。それでサッと帰ることが出来た。
「ですねぇ。でもお腹減りましたぁ。」
「まぁ航海に一日掛かったからな。」
とりあえず港町へ向かおうかと思った時、ふと目に入ったものがあった。
海の近くの崖に開かれた洞窟の入り口である。
「ありゃダンジョンか?」
「みたいですぅ。行きますかぁ?」
魔物で自給自足も出来るし金も稼げる。一石二鳥な気がした。
「行くか。」
「はぁい。」
「えぇー?街に行きましょうよぉ。つーかーれー……。」
「ん?」
ストレアが駄々を止めた。不自然に。
「……行きましょうか。」
「あったな?」
「匂いましたねぇ?」
「……さっ、行くわよ者共。アタシの食事の為に。アタシの"美味しい"食事の為に!!」
そう言ってストレアはさっさと歩き出した。分かりやすい奴だ。匂ったのだろう。ダンジョンから、バグの匂いが。
洞窟の入り口は、近づいてみると分かるが、坑道のように整備されていた。木で岩盤が押さえつけられており、人が通れるように整備されている。足元も踏み固められている。
「ふむ。鉱山か何かか?」
と、横に看板があるのを発見した。そこにはこう書かれていた。最後の四文字は後から付け足されたように書かれている。
『コズドー鉱山:幽霊注意!!』
「幽霊ねぇ。」
「ゴーストと間違えたんじゃねぇの?」
「……下界では幽霊とゴーストは別物なの?」
「え、お前的には同じ物なの?」
お互いに驚きの表情を見せた。
「私的には同じよ。実体があやふやで、輝いてる、死者の転生先……というか復活時の姿として作ったのが幽霊でありゴースト。」
「オレ達としてはゴーストがそれだ。幽霊ってのは実体が無い声だけの存在っていう立ち位置。」
「ややこしい!!分けなくていいじゃないの!!」
「それに関してはストレア様に同意ですぅ。何で別れてるんですか?」
「んー、オレも詳しくは知らないけどな。」
幽霊とは確か、ドミネア教が流行る前に囁かれていた死後の姿の一つである。
人は死ぬとゾンビやスケルトンとして蘇る。そうならないように人々は火葬し、金が無いものは土葬する。そうやって対処する事で蘇らなかった場合、肉体は土に還り、肥料あるいは灰となる。では魂は?
その説明として、或いは、死者が多い場所で響く異様な声の正体として考えられたのが「幽霊」という存在である。
魂は転生する。だがその転生の輪廻から稀に外れる時がある。その外れた魂の行き先が幽霊である。死んだまま現世に留まり、何にも干渉出来ず、ただ現世を眺めて怨嗟の声を上げる事しか出来ない。所謂ゴースト、死霊族の一種とも言われるが、実体を持つそれらと比較しても更に低位の存在。それが「幽霊」である、という話だったと思う。
今ではそのようなものは居ないと言われている。ドミネア教においては、救われた者は人として、救われなかった者は全て死霊族として転生する。完璧なはずの神が作り出した輪廻転生の仕組みにおいて、例外は存在しない。異様な声の正体もまた、聞き間違いか、或いは死霊族のそれとして扱われている。
ーーーという説明を二人に披露した。
「そういうわけで、実体があるのがゴースト、無いのが幽霊。魔物として討伐出来るのもゴーストだけだな。」
「やっぱりややこしい。」
「まぁ、それは、否定しない。」
「声だけの存在ねぇ。それに関しては癪だけどドミネア教の教えが正しいわ。アタシとしては、魂だけになったら即転生ないしは復活するようにしてるから。ダンジョンで死んだら死霊族として復活するとかね。そこから救い出す方法として、ライフの受け渡しを想定してるわけよ。」
「ライフを渡したら転生先の生物はどうなるんだ?」
「巻戻るわね。生まれてこなかったことになる。そいつの魂だけ時間が逆行するみたいなイメージよ。」
「……なんだか難しいですねぇ。」
「全くだ。そんな仕組みを作ったからバグが増えたんじゃねぇの?」
「……。」
「何か言えですぅ。」
「さっ。じゃあ行くわよ。幽霊が本当に居るかどうか確かめてやろうじゃないの!!」
そう言ってストレアは力強く大地を踏みしめながら鉱山へと入って行った。
オレ達は顔を見合わせて溜息を吐き、やれやれと手を振りながらそれに続いた。
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