アイ・コンタクト

犬屋小烏本部

第1話待つもの来ない

『私』を見てよ。手をのばさせるくらい、私を見てよ。




人生で一体何回ほど他人と目があうのだろうか。初めて逢った時、私たちは初めて目が逢うのだろう。意思を交わそうとする時、私たちは互いに目を合わせて意思の疎通を図ろうとする。町で偶然すれ違った時、私たちは会いたくても会いたくなくてもとりあえず目は会ってしまう。

国内の人口は一億人を越える。世界の人口であれば七十五億人を越える。それらの持つ目はなにかしらを見ようと、常に目を合わせる対象を探すのである。

さて。人口が多いと感じるが、それに対して物の数などまさに数えきれないものである。その中から一つ一つを選ぶのだから、運命的なもの、運命的な出逢いがあってもいいと思うのだ。例えば食べ物。例えば玩具。例えば日常用品。例えば筆記具。例えば娯楽用品。例えば…… ほら、あげていけば切りがないではないか。

スーパーや専門店の店頭にずらりと並ぶ彼らたち。同一の物として一定数製造される『商品』である彼らは、今日も自分が選ばれ手に取られることを待ち望んでいる。




これは、そんな日常のワンシーンを切り取った話である。

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