第27話
「ならば、妻と契約してくれ。娘のためなら寿命を差し出してくれる、いや絶対させる、説得するから」
「奥様と契約なさる相手を今から探すのですか。出来ないことはありませんが、無理です御断りします」
「なぜだ」
「条件に合わないからですよ、奥様の寿命ではダメです」
淡々と仕事口調で話す死神の、胸ぐらを掴んでやりたい衝動にかられたが、そんなことをしている場合ではない。ん、条件と言ったな。
「条件て何なんだ」
「当人の人生を変えるために、その寿命を差し出すのです。他人のために使うことは出来ません。あなたや奥様の寿命では娘さんの寿命に影響はあたえられないのです」
「それならば、娘本人ならいいのか。あの子の寿命がどのくらいか分からないが、今は死なせたくない。娘と交渉してくれ」
しかし死神は冷たく首を振る。
「今は意識不明の状態です。こんな時に交渉したら、当人は納得しないでしょう。私としては臨終の時に未練がある魂にしたくないんですよ。回復してからなら交渉しますが、今は出来ません。ちゃんと納得出来る状態でないと受け付けられません」
長い付き合いじゃないか、何とかしてくれよと土下座したくなったが、だからこそ分かる。こいつはそんなことしても変わらないと。
俺は最後の手段として、スマホを取り出した。
「クライアントに直接連絡するつもりですか? 無駄ですよ、スマホ内の履歴もアドレスも消去してありますから」
「なに!?」
確かめてみたが、本当に無い。
メールと履歴はその都度消してきたから、無いのは当たり前だが、万が一に備えて登録していたアドレスも消えていた。
私の仕事に抜かりは無いと、澄ました顔の死神を睨みつけたが、どうしようもない。
打つ手はもう無い……
諦めかけてた俺に着信があった。おそらく妻からだろう。名前を確認せずにおそるおそる電話に出る。
「ムスメ ノ イノチ タスケテ ヤロウカ」
聞いたことの無い、まるで地の底から響いてくるような声だった。
誰だろうなんて、思わなかった。アイツだ、メールの送り主だ。
俺の思考を読んだのだろう、死神が慌ててスマホを取り上げようとしたが、もう遅い。
「俺の魂をやる、娘を助けてくれ」
「ショウチ シタ」
その言葉を聴いた後に、死神が取り上げる。
が、遅かった事に気づいた死神は、珍しく感情的になった顔になる。
「やってくれましたね、契約は成立してしまいました」
通話の切れたスマホを、俺に投げ返す。すると、また着信があった。今度は確認すると、妻からだった。
「あなた、あなた、娘が、娘が、持ち直したって、回復に向かっているって、もう大丈夫だって先生が……」
その後は泣き崩れたのだろう、言葉になっていなかった。
もう思い残すことはない、いつか来ると知っていただろう。
それが今なんだよ。
俺は死神の前に立った。
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