つかの間の平穏

ルードから聞き出した情報により大帝国は人類国の統合に忙しく、すぐにエルフ国に攻め入ってくるなどの心配はないそうだ。


無論安心はできない。だが、つかの間のほっとできるような瞬間でもあった。


「や、やめろっ! 私は貴族だっ! 貴族に拷問をするつもりかっ!」


「落ち着いてください。ロイ様」


「やめろっ! ぐわっ!」


 しばらくして俺の暗殺を企てたロイの処遇も決まった。ルードと同じで服従の首輪をつけさせた奉仕労働を行う事となった。


 首輪をつけられたロイはルードと同じくなんでも言う事を聞く人形になった。犯罪者をただ幽閉しておくだけ、処刑するだけでは勿体がない。有効利用した方がいいと俺は考えた。


 こうした事もあり、表向き俺を暗殺しようなどと企てる者はいなくなった。純血主義者の中には俺に反感を抱いている者もまだいるだろう。それでもかつてほどその動きは目だたくなっていった。


 俺達はこうして外部及び内部からの圧力がなくなり、つかの間の平穏を手に入れる事ができたのだ。


 だが、その平穏はいずれは終わる平穏だ。その間に準備を進めておかなければならない。仮に大帝国と再び戦う事になっても打ち負けないだけの強力な力を身に着けておかなければ、備えておかなければ。この平和を守り抜く事はできない。


「鉄砲兵。構え!」


 その日行われていたのはエルフ兵により射撃訓練だ。貸与された銃を的に放つ、射撃の訓練。


「撃て!」


 パァン! パァン! パァン!


 乾いた音が響く。


「みんな銃が様になってきましたね」


 横にいるユースが言う。


「ああ。そうだね。銃は物騒だけど、身を守る事もできるはずだ。僕たちのエルフ国を守るための強力な武器になるはずだよ」


「そうだといいのですが。大帝国の力は脅威です。ルード王子の情報によりその全容をつかめましたが、多くの人員と強力な兵器があるそうです。おそらくはルード王子でも知りえないような。あの魔道カノンのような強力な兵器もある事でしょう。非人道的な。より悪辣な兵器もあるかもしれませぬ。私達は勝てるのでしょうか?」


「俺が必ず、エルフ国を守って見せる。そしてユース、君もだ」


「ありがとうございます。フェイ様」


「そしてしかるべき時が来たら必ず君を妻にしてみせる」


「はい。期待しています。フェイ様。フェイ様なら必ず成し遂げてくださいます」


 俺達は見つめ合った。そして、誰もいない事を確認し、唇を重ねる。浅いキスだ。短い時間のキス。だがそれで十分だった。


 俺達の心が繋がっている事を確認できた気がしたからだ。


「じゃあ、俺はそろそろ工房に戻るよ」


「私も城に戻ります。お父様に言われたようがありますので」


「頑張ってね、ユース」


「フェイ様も。ご無理をなさらないように」


 ユースは笑みを浮かべた。


 俺は伸びをする。


「うーん! じゃあ今日も一日頑張ろうか」


 さっきユースにエネルギーを貰った事だし。ユースは城へ向かった。そして俺も工房へ向かう。


 今日も一日、楽しい鍛錬ライフの始まりだ。

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