漁師たちが特別製の釣り竿で川の主を釣り上げる

「くそっ! また逃げられたっ!」


「ちくしょう! なんて大物なんだ! こんな釣り竿じゃ糞の役にもたたねぇ!」


「網も突き破るし、とてもただの魚とは思えないぜ!」


 漁師たちがざわついていた。エルフの国には森の他に川や池なども存在していた。


 そこで獲れる魚は国民の貴重な食糧源にもなった。


「一体、どうすればいいんだ? 俺達は一生かかっても主を釣りあげる事はできないのか」


 漁師の男は嘆く。漁師たちは長年川の主を釣りあげるべく苦闘してきたが、いずれも失敗している。


「俺にひとつだけ良いアイディアがあるんだ」


「アイディア?」


「ああ。なんでも狩人の奴ら、最近来た鍛冶師様に弓矢を作ってもらったらしいじゃねぇか。ずるいだろ。俺達も釣り竿を作ってもらえばいいんだ。そうすれば川の主を釣りあげる事も可能になるかもしれねぇ」


「け、けど俺達みたいな漁師に取り合ってくれるかな。相手は国賓のお偉いさまだろ」


「言ってみなきゃ始まらないだろ。ともかく言ってみなきゃ。断られたらその時考えればいいんだ」


「んだ、んだ。そうするしかない! 駄目だったらその時考えよう」


「ああ!」


 漁師たち数名はエルフ城へと向かっていった。


 ■■■


「フェイ様」


「ん? なに?」


 目を覚ましてしばらく経った時の事だった。


「フェイ様にどうしてもお会いしたい人達がいるそうです」


「誰?」


「なんでも今度はエルフの漁師たちらしいです」


「漁師?」


「ええ。水上の狩人というべき職業です。魚を獲るのが仕事の人達です」


「なんで漁師がまた」


「いかがされますか?」


「とにかく会ってみないとわからないよ。謁見の間まで通してあげて」


「かしこまりました。少々お待ちください」


 ソフィアは頭を下げた。


「「「どうかお願いします! 主を釣り上げる為! 立派な釣り竿を作ってくだせえええええええええ」」」


 俺に会った漁師たちは、会うなり額を床にこすりつけてきた。


「はぁ……」


 俺はため息を吐く。どうもこうかしづかれる事に俺は慣れていない。気づかれしてしまう。


「どうか、どうかこの通りです!」

「主を釣り上げるのは俺達の夢なんです!」

「それだけじゃない! 主を釣り上げれば国民の飢えがしばらくしのげるんです!」


「頭を上げてよ」


「は、はあ……」


「いいよ」


「今なんと!?」


「だから釣り竿だよね。良いよ。作るだけ作るよ。ただその主っていうの? 何となく想像だけど大きな魚なんでしょ。それに耐えられるかどうかは約束できないよ」


「ありがとうございます! たとえダメでもやってみる事に価値があるんですだ!」


「ああっ! そうだっ! 何事も挑戦してみなければわからない事ですだ!」


「しばらく待ってよ。2、3日はかかるかな」


 こうして俺は釣り竿を作る事になった。


 キンコンカンコン!


 俺は工房で鍛冶をする。


「できた! 完成だ!」


「おめでとうございます! フェイ様」


 ソフィアが拍手をする。


「どのような出来栄えになったのですか?」


「基本的にはミスリル弓矢と変わらないよ。やっぱりミスリルは軽くて丈夫だからね。アダマンタイトとかオリハルコンとなると、硬い反面重くて軽作業には向かないんだ」


 アダマンタイトやオリハルコンは剣か。何より耐久力を重要とする鎧に必要になってくるだろう。


「はぁ……そうですか」


 俺はミスリル釣り竿を五本作った。


「この糸も特別製だよ。クジラを釣り上げたって切れない糸を使っているんだ」


「クジラも。それは凄い事ですね」


「この釣り竿を漁師に渡してよ」


「わかりました! 早速渡して参ります!」


 こうしてミスリル釣り竿は漁師に渡された。


 ■■■


「これが鍛冶師殿がくれたミスリル釣り竿」


「軽いぜ。まるで木でできているみたいだ」


「ああっ。その上強度は鋼鉄以上らしいぜ」


「流石は魔法の金属と言われるだけあるぜ」


 漁師たちはミスリル釣り竿に感激していた。


「これなら主だって釣り上げられるかもしれない」


「ああ! 俺達の夢がかなうぜ!」


 漁師達は川へ向かった。


 幾人かで釣りをする。そのうち、釣り竿ピクピク動き出した。そして次の瞬間、身体を持っていかれる程の強い力を感じたのである。


「俺の竿に引っかかったみたいだ! このすげー力まちがいねぇ! 主だ!」


「俺達も手伝うぞ!」


「ああ!」

 

 漁師達数名で助勢する。


「いつもならここで竿が折れている! けど今回はビクともしねぇ!」


「いける! いけるぜ! 間違いない!」


「ああ! 俺達の夢が叶う!」


「いくぜ!」


「「「おうっ!」」」


「せーの!」


「「「「よいっしょ!」」」


 漁師達は釣り竿を振り上げた。


 すると、ものすごい巨大な魚が陸へ躍り出たのである。


 巨大魚=主は陸でものすごい勢いで跳ね始めた。


「やった! 釣れたぞ! 主だ! ついに俺達は主を連れたんだ!」


「やったぜ! 夢が叶ったんだ!」


「これもあの鍛冶師のフェイ様のおかげだぜ!」


 漁師達は主を釣れた事を喜んでいた。


 ■■■


「フェイ様。漁師の方々から主を釣れたとの報告がきました」


「そうなんだ。それは良かったね」


 ソフィアからの報告を聞いた俺は笑みを浮かべる。


「そうか。釣れたんだ。あの釣り竿役に立ったんだ」


「それでフェイ様に是非お礼を言いたいとの事です」


「わかった。通していいよ」


「はい。少々お待ちください」



「「「ありがとうございます! 鍛冶師フェイ様! あなた様のおかげで主を釣り上げる事ができました!」」」


 またもや漁師達は床に頭をこすりつけてくる。


「それはよかった。おめでとう。俺が作った釣り竿が役に立ったみたいでよかったよ」


「ありがとうございます! フェイ様のおかげで夢が叶いました!」


「ああ! 俺達主を釣るのが夢だったんだ!」


「それどころじゃねぇ! 国民の腹も満ちる!」


「フェイ様、どうか受け取ってください!」


 漁師達は馬鹿みたいに大きい魚を数人がかりで運んできた。


「うわっ! でかいねっ! けど早く食べないと悪くなっちゃうよね。ソフィア」


「はい」


「シェフを総出で料理に取り掛かって。それで国民にも振舞うんだ」


「わかりました! フェイ様、そのように致します」


「漁師の人達も自分達で釣ったんだし、是非食べていってよ」


「「「ありがとうございます」」」


 漁師達は床に頭をこすりつける。


「だから頭をあげてよ」

 

 俺は苦笑した。

 そしてその魚は漁師達だけではない、エルフ城の人々。そして、国民の胃袋を満たしたのだ。

 彼等の夢が叶う事で多くの人達が幸せになれた。


 俺の作った釣り竿がその一助となれていたのなら、鍛冶師としてこれ以上ない幸せな出来事であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る