第35話 優しさ
「だろうな。なんとなく分かってた」
冷静に返す。
「もっと動揺するかと思ってたんだけど……どうやら、剛の覚悟を見くびってたみたいだね」
「動揺したってしょうがない。親父がどうだって、今の俺は戦うだけだ」
「剛……」
幸が心配そうに俺を見ている。
けれどそれに視線を合わせる事はしない。
「うん。でもこの話には続きがある。むしろこっちが重要だ」
「何だ?」
「前に、親父さんは忙しくて家を空けていると言ってたよね?」
「ああ。そうだけど、どうしたんだ?」
「僕と君が出会った時。あの時カケルが敵と戦闘していた訳だけど、その敵がやってきた理由は君の親父さんだと推測される。だけど、それ以後敵はあの近辺に現れていない。この意味が分かるかい?」
「……教えてくれ」
「つまり、僕が君と接触してから今までのどこかで、奴らが君の親父さんを諦めたか手中に収めたと言うことになる。そしてその親父さんはレボルブにとっては最重要と言って差し支えない人物だ。……よって、後者の手中に収めたという線が濃厚になる」
「……ああ」
「だがそうだとしても疑問は生まれる。一度組織を裏切った人間を武力をもって回収しようとしていたレボルブが、突然兵士を動員しないようになった。妙だと思わない?」
「考えうるパターンは……」
「君の親父さんが、自らの意思でレボルブの元へ降った可能性だ」
「……そうなるよな」
「うん。とはいえ確定事項ではないからね。君の過去に関わる内容でもあるだろうし、可能な範囲でじっくり調査をしていこう。それじゃあ僕は一旦共有スペースに戻るよ。用があったら呼んで」
「ああ、ありがとな」
「気にしないで。僕としても気になるところは多いしね」
「そっか」
翔が医務室を去る。
翔がいなくなった事で糸が切れたのか、俺は。
「え、剛……!?」
幸に抱きついた。
「どうしたの!?」
「……らないでくれ」
「え?」
俺の腕の中でじたばたとする幸。
でもそんなのお構いなしに、俺は言葉を紡ぎ続ける。
「……幸だけは、せめて、いなくならないでくれ」
「わた…し?」
「ああ。……急に暁がいなくなって、これまで普通に過ごしてきた日常がなくなって、挙げ句の果てには親父まで敵になっちまったよ……」
「剛……」
「翔とか、桜見とか、理仁とか、ここに来て大事な奴らだって出来たよ……でもあの日常の欠片はもう、幸しか残ってないんだ……だから!たの……」
「剛!」
情けなく涙を流して、心に秘めていた辛さを告げた俺に幸が取った行動は……
「いなくなんて、ならないよ」
俺を抱き締める事だった。
「剛がここに居るんだったら、私だってここに居るから。何年だって、何十年だって」
「っ……!」
「前にした約束、覚えてる?」
「……絶対に、いなくなったりしないこと」
「そう。私からいなくなることなんてぜっったいにないけど、一応私も約束する」
ああ、そうだったのか。
俺が思ってたよりもずっと、幸は優しいんだ。
正直、どうして俺が幸に惚れたのかはあんまりよく分かってなかった。
ただふと好きになって、それだけ。
でも今は胸を張って、この優しさが好きなんだって言える。
そして今は、その優しさに甘えたい。
「ありが……とう……」
「えへへ、恥ずかしいね、なんか」
俺は、幸に抱きついたまましばらく時を過ごした。
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