第33話 片鱗
「どこだここ」
周囲には何も見えない。
前後の感覚が分からなくなる程、黒一色に染め上げられた空間。
イブキがいたあの純白の場所を性質はそのまま真っ黒に塗り潰したような、そんな空間が広がっていた。
「そもそも、俺は訓練の時に意識失って……っ!!!!」
突然、激痛に襲われる。
そして世界そのものが捻れるような、そんな感覚。
それと共に、俺の脳裏に何かが浮かび上がってきた。
……………
「……再生実験は成功。被験No.1、確かに動いています。続いて能力の検証を」
「ああ、始めてくれ」
「承知しました。……移植した能力細胞の活動も確認。体内に埋め込んだ身体強化チップとの併用にも成功」
「ということは……」
「うむ、ついに!」
「プロジェクト・ルーラー。その第一段階となる実験は成功ってことになる」
プロジェクト・[ルーラー……?
何の事を言っているのだろう。
というか俺は何の視点でこの光景を見ている?
そしてガラスの向こうの少年は誰だ?
気にはなっていても、その姿は靄がかかっていて見えない。
「だがまだ安心には早いでしょうね。定期検査や精神状態のチェック。それに、実戦投入に向けた訓練だってあるんですから」
「それもそうか。しかし、今はこの現状が喜ばしい。何せ、停滞していた我らの悲願への大きな一歩を、今踏み出したのだから」
「そうとも、この結果がもたらすものは計り知れない。コーストの打倒や誰にも逆らえない絶対的な法の体現者となる執行人の作成。私たちの計画が完成するまでに必要なピースの半分はこの実験から生まれるものだ」
「これをベースに君の力を借りれば、数年後にもあの細胞の移植にも成功するだろう。これからもよろしく頼む……大風博士」
コースト!?
コーストの打倒とそれなりの老齢と思われる研究者然とした風貌の男は確かに言った。
ということはここは……
(レボルブの基地……なのか……!?)
基地でなくても、恐らくそれに近い重要な役割を果たす施設だろうことは会話の内容から容易に察する事が出来た。
そして、大風博士だって?
その大風博士と呼ばれた男の顔を覗き見ようとしてもまた靄がかかって見えない。
大風。
俺の名字と合致する名だ。
明らかに今の俺より大きいのでこいつが過去の俺で、今の俺がその頃の記憶を思い出しつつあるということはないだろうが、にしても引っ掛かる。
偶然か……?
「ところで、仮称としてもあの被験体に名前を付けないといけないだろう。どうするつもりだ?」
「ああ、それはもう決めてあります。単純ですけど、育てるのを預からせていただく以上我が子のようなものですから」
「そうか、では頼む」
「彼に移植した力は身体能力の強化。そして、体内には身体能力を強化するチップが埋まっている。身体において右に出る者は恐らく現れないでしょう。……でも、私は彼の精神にまで成長を促したい。この計画は、最強でありながら人間である者の存在によって完成するものです。喜怒哀楽に代表される複雑な感情を持つ存在こそが人間として強いのだと、私は思います。そんな人間を、私は育てたい。だから、いずれ誰より強くなる彼の名前は……」
「剛です」
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