第28話 踏み込む

「どうしたんだ!?」


そう翔の元へ集まる。

その腕の中には、満身創痍になった桜見の姿があった。

その翔も大怪我とまではいかないもののそれなりの傷がある。


「端寺さん!医務室で治療の用意!僕は良いから枯葉の分に全部回して!」

「待ってください鍔越さん!貴方の怪我はどうするんです!桜見さん程ではないにしろ貴方の傷も浅くはないでしょう!」

「そんなの二の次だよ!端寺さん!」

「……承知致しました」


自分を捨てて桜見の治療に注力しようとする翔。

そんな翔を望月が制止しようとするも翔はそれも振り払った。

その覚悟に応えたのか、無機質に頼まれたことを遂行するだけか。

端寺さんは医務室の扉を開いた。


「ありがとう。枯葉も僕も、きっと戻ってくるから大丈夫だよ」


俺たちは、その言葉を信じるしかなかった。

翔と桜見、そして端寺さんが医務室に入った直後、おっちゃんが出てくる。


「皆ご苦労だった。翔君と桜見君の事は私も聞き及んでいる。……無事を祈ろう」

「そうだ金浜さんよ、No.50はどうなったんだ?」

「カケル君からは痛み分けの形で取り逃がしたと報告されているよ。やはり、あれは我々にとって脅威だな」

「あの二人でも倒し切れないとすると、いよいよ厳しいもんね。他のところから人員を持ってくる訳にもいかないし」

「ああ、そこでだ。剛君には訓練の後、彼ら二人と同じ隊に入ってもらいたい。理仁君にはこれまで通り敵の少ない場所で殲滅をしてもらえば大丈夫だろう」

「え?でも俺で戦力になるのか?」


事実そうだ。

カケルは他を大きく突き放してここでNo.2の実力者だし、桜見もそれには及ばないまでも中々とんでもないと聞く。

その中に、俺は入れるのか?


「問題ない。君の持つポテンシャルには目を見張るものがある。それに、翔君から君へ説明してもらいたいこともある」

「説明してもらいたいこと?」


何だ?

俺について何かあるのか?


「なに、それは遅かれ早かれいつか分かる。とりあえず今の剛君に必要なものは力だ。励んでくれ」

「ああ、そうする」


確かに。

俺に何が隠されてようが今は力が必要だ。

誰かを守りたいなら、自分を守れるくらいには強くないと。


「それでは解散。各々自由に行動してくれ」


おっちゃんからかかる解散の号令。

皆がのんびりとチョコを口に含んだりチェスを始めたりする中。

俺は、医務室へと足を運んだ。



……………



「来たの?大風」


医務室の扉を開くと、そこでは普通にベッドから起き上がってまだ眠っている翔を眺めている桜見がいた。


「ああ、報告したいこともあるし、翔と桜見が心配だ」

「そう。ま、あたしはこの通り大丈夫よ。まだちょっと痛むけどね」

「あれだけの怪我でもう治ったのか?」

「そう、翔の薬が効いたの」

「薬?」


そのスピードであれだけの傷が治るのはもはや能力の域だと思うが。


「ただ今の人類には通常の手段では作れない薬でね。翔が自分の能力で生み出した、翔にしか扱えない薬なの」

「能力?翔の能力って落雷と光速移動だけじゃないのか?」


俺はそう聞き及んでいるが。


「それは戦ってる時とかに出てきてる方のカケルが主に使ってる能力よ。こっちの翔は、主にこの創造能力で色んなものを生み出してる」

「創造?どんな能力なんだ?」

「設計図が脳内でキチンと完成していて、かつちょっと強引でも理屈が通れば後は同じだけの質量のものを使ってそれを生み出せる力よ。一人で三つなんて、本当に恐ろしい能力者よね」


こんな寝顔からは、想像も出来ない。

そう一言呟くように付け加えて、眠っている翔の頬をつつく。


「その薬使って翔を治せないのか?」

「さっき言ったでしょ、翔にしか扱えないって。あの薬はちょっとでも加減を間違えると人が死んじゃうみたい。だから、使い方と感覚を完全に覚えてる翔にしか扱えない」

「なるほど、だから翔は……」


まだこうして眠ってる。

さっきは服の上からだったから分かりにくかったが、巻かれている包帯の数を見るに翔も桜見に負けず劣らずどころかそれ以上の大怪我を負っているようだった。

桜見の様子を見るに命に別状は無さそうなのでとりあえず安心してよいのだろう。

そう思っていると、桜見が翔の怪我の理由を語ってくれた。


「翔、あたしを庇ったの」

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