第25話 時は流れる

訓練が始まってから数日。

あの体術訓練の後は普通に体術の訓練を続けたり、発砲の訓練も一応受けた。

流石に皆には及ばないながらも自分でもなんとなくは上達しているのを実感しているところだ。

というか皆人間か否かをまず疑いたくなる程の身体能力を誇っていて全く着いていけない。

非戦闘員らしい端寺さんですらめちゃくちゃだった。

他のメンバーは当然それ以上。

翔とか新雲はシンプルに異常だし、桜見もどんな体の構造をしてるのか分からないレベルの柔軟性。

理仁は身体能力もさることながら射撃がえげつない。

拳銃で一度撃って空けた穴にもう一度銃弾を通す離れ業をしれっと披露してみせた。

一般人的におかしいだけで翔達にしてみれば普通なのかと思って聞いてもやっぱり異常だと返ってきた。

でも一つだけ気がかりな事があった。

最初の訓練の時、突然意識を失ったあの現象。

それについて聞いても誰も教えてくれない。

あれはなんだったんだろうか?

考えていると……


カン!カン!カン!カン!

ガガガガガガガガガ!


「……何の音?これ」



唐突に轟音が響く。

これあれだ、工事現場で聞くあれだ。

黒ヶ崎ではまあ滅多に聞かないが、鏡峰の方だと割と聞く音。

しかしどうしてこんなとこで?


「ああ、工事してんの」

「マジで工事なのかよ」


カケルが答える。

いや何の工事だよ。


「端寺がお前らどっちかの部屋作ってんだよ。もうそんなに時間かかんねえだろ」


そんな話をしている内に、さっきまでの音はいつの間にか止まっている。

そしてドアから安全第一のヘルメットを被り工事用ドリルを片手に持った端寺さんが無表情で顔を出していた。

どんな場面だよ。


「終わりました。大風さんと穂ノ原さんはお二人でどちらの部屋をどちらがお使いになられるのかお決めください」


それだけ告げて、端寺さんは個室方面へてくてく歩いていく。

感謝したいんだけど感謝以前に言いたい事が多すぎて頭がパンクしそうだ。


「幸、行こうぜ」

「う、うん」


幸も困惑していた。

だけど皆は何食わぬ顔で「いつもの事だ」と言わんばかりにコーヒーを飲んだりチェスをしたりと普通に過ごしている。

えっ、これよくあることなの?



……………



「じゃあ、幸荷物動かすのめんどいだろうし俺新しい方使うよ」

「いいの?ありがとう!」


大して何かあるわけでもなく部屋が決定。

荷物を纏めているとやはりと言うべきかどう言うべきか、思ってしまう事がある。


(ちょっと、まあまあ、結構名残惜しいな)


二度脳内で訂正を入れたが事実名残惜しい。

未練たらたらではないが少なからず楽しかったし嬉しかったから。

まあお別れじゃないんだし、これ以降この部屋にいたらまたセクハラを疑われそうだし。

あれの話題の時、妙に端寺さんの視線が冷たいからあれはもう繰り返したくない。

でも去り際に


「あ、剛」

「どうした?」

「……また、私の部屋遊びに来てね」


なんて事を赤くなりながら俯いて呟くもんだから。

俺は……


「…おう、喜んで」


俯いて小声で返すしかできなかった。

そして俺は俺たちの部屋改め幸の部屋を去る。

そして向かおう、新たな俺の個室へ。


……隣だけど。

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