第23話 能力と死刑

目の前に広がる信じられない光景。

地獄を描く絵は多くあるが、そのどれもがこの惨状には遠く遠く及ばないと断言できる。

崩壊した町、血の海に散らばる人間だった何か。

だがそんなものは序の口でしかない。

何よりも信じたくないのが……


グシャッ!!



それらを次々に喰らう幼馴染みの姿だった。










「……っ!!!」


目が覚めた。

心臓が異常な速度で脈打つのがよく分かる。

寝間着は汗でぐっしょりと濡れ、寝ていただけなのに息も荒い。


(何だ、今の夢……)


前の祭りよりもうんと酷い惨状。

とんでもない夢を見た。

ふと気になって隣を確認する。


「すぅ…すぅ…」


隣で寝てた奴のうなされように対して凄く穏やかに寝息を立てていた。

というか……


(幸の寝顔可愛いな)


そう思って数秒観察する。

ヤバい、頬っぺた触ってみたい。

そんな欲望が湧いて出た。

少し考えた末、手を伸ばしたその時。


「剛、起きてるかい?検査結果報告しに来……」


よりにもよってこんなタイミングで翔がやって来やがった。


「……失礼しました」

「待て、俺は断じて幸に変な事はしてないからな」

「いやでもその構図は完全にセクハラ……」

「ちっっがああああう!!」


喉の奥から声を絞り出して全力否定する。

横で幸が寝てるのを忘れて。


「うん?……うー……んんんん!!??」

「あ、いや、幸!これは、その……」

「……!!」///


ヤバい、幸がめちゃくちゃ赤くなってる。

可愛いけど、言い逃れ出来ない状況になってしまった。


「剛、ちょっと共有スペース」

「はい」



そして共有スペース。

俺はおっちゃんを除く全メンバーに裁判にかけられていた。

何人か知らない顔もいるが、それは前にいなかった人たちだろう。

ちなみに俺は被告人が立ってるとこで正座。

そして裁判長の席には桜見が座り、検察は何故か翔のみ、そして弁護士の席には知らない顔が。

他のメンツは横から眺めているもののその目はどことなく冷めている。


「それではこれより、被告人大風剛の裁判を始めます。裁判の手順とか知らないしとりあえず検察の方、どうぞ」

「死刑を求刑します」

「雑っ!?何故!?」

「では弁護士の方、どうぞ」

「めんどくさいし異論なしです」

「初対面だけどこの弁護士使えねぇ……」

「あぁん!?よし、こいつ今すぐ死刑だ」

「敵かよ!?」

「それでは判決、死刑。それでは閉廷!」


凄まじい勢いで死刑が確定した。


「まあ殺しはしないけど、しばらく雑務は全部剛にやってもらうよ」

「お、おう……」


そして撤回。

家事は馴れてるから別に問題ない。


「じゃあ剛のセクハラから話題を変えて、剛の能力の話をしようか」

「セクハラが能力じゃないの?」


桜見にめちゃくちゃ失礼なことを言われた。

心外だ。

俺は幸と接する時は真心を込めてだな。


「枯葉。多分それは能力というより剛の趣味とかの問題だよ」


翔も失礼だった。


「脱線はそろそろやめて、もうさっさと能力の話に移そう」

「お前もノってただろ翔」

「剛、君の能力はいたってシンプルだ。区分で言えば全能力者で最も多い区分に入る」

「無視しただろ、絶対今無視しただろ」

「ズバリ身体能力の強化。そして、その中でも最上級の力を持ってる」


無視されたのは気に入らないが、翔から俺の能力が明かされた。

身体能力強化。

確かに時間停止やら光速移動やらに比べればいたってシンプルだ。


「身体強化、それも最上級となると僕たちとしてもとても重要な戦力になるよ。シンプルだから作戦に組み込みやすいし、みんな能力のクセ強いから」

「なるほど」

「ただ、訓練は積んでもらう必要があるかな」

「訓練?」

「そ、訓練。単純に素の能力を強化する分、基本の体術とかが同じ能力持ちと戦う時なんかに物を言うし」


確かにこのタイプの能力は一番多いらしいし、同じ能力同士の戦いもあり得るかもしれない。

それ以外でも、きっと活きる時もあるんだろう。


「ま、剛ならあまり訓練の時間もいらないけどね」

「どういう意味だ?」

「その内分かるよ。それじゃ、今日の朝ごはんからよろしくね」

「え?ちょ、おい!」


なんかはぐらかされた。

けど、そっか。

ここから俺の、幸を守るための戦いが始まるんだ。

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