第21話 力

「ああ、翔だよ。正真正銘、僕は鍔越翔さ」

「え、でもさっきまで……」


そうだ、さっきまで目の前にいたのは見た目が似てて名前が同じなだけで別人同然のカケルだった。

出来すぎた偶然とはいえ、あの二人の性格の違いを見て同一人物とはとても思えない。

説明できるとすれば…


「さっきまでのは、僕のもう一つの人格さ」

「……あー、なるほど」

「驚かないの?」

「いや、驚いてるけどそれよりもそういうことかって納得してる方が大きい」

「それは確かに。何も知らないのに目の前でいきなり人格切り替わったら僕も混乱する」


だろ?と俺が言ってから、翔はこほんと咳払いをして自己紹介をする。


「改めて、僕は鍔越翔。梅干しは大好物だけどレーズンは苦手かな。ここでは戦闘員じゃなくて、能力の研究とか医務を任されてるんだ。よろしくね」

「ああ、よろしく」


確かに翔が戦うイメージはあまりない。

あれ?でもカケルはガッツリ俺とあの時の奴の間に割り込んで相手にグーパン叩き込んでたような。

別扱いなんだろうか。


「それじゃ早速だけど、十分後に医務室に来て。この部屋の真向かいの扉の先だから分かりやすいと思う」

「了解」

「それじゃ、後でね」


そう残して翔は部屋を去る。

そして適当に皆と話していると案外すぐに十分が経過し、俺は医務室を訪れた。


「おっ、来たかい」

「ああ、何するんだ?」


医務室へとやって来たものの、何やら探し物をしている様子だ。


「ちょっと待ってね……あー、多分共有スペースに置いてきちゃったかなあ。ごめん、あと3分だけ待ってて」


そう言って部屋を飛び出す翔。

何か大切なものでも忘れてたんだろうか。


「あっ丁度良いや、枯葉!」


そして部屋の外から桜見と話す翔の声が。


「悪いんだけど、共有のとこから採血のセット持ってきて!」

「えー……自分で取りに行ってよ、それくらい。まぁいいけど……」

「ありがとう枯葉!剛に色々話しとくから取ってきたらこっちの机に置いといて!」

「全部あたしにやらせんな!」


そう文句を垂れながらも取りに行ってくれたらしく、翔が部屋に戻ってくる。

それにしても二人は仲が良いのだろうか。

なんだかんだ親しそうな感じだが。


「さて、じゃあ枯葉が来るまで僕からこれからする検査について説明を」

「よろしく頼む」

「とは言っても調べる内容はあんまり多くないよ、剛が能力者であるのか否か。そして能力者であったとして一体どのような能力の持ち主なのか。あ、非能力者だった場合戦場には出せないから注意してね」

「へ?」


最初に戦うか戦わないか問われるだけかと思っていたが、意外な条件……いや、よく考えれば驚くことでもないか。


「そりゃそうだよ、戦場では強力な能力者たちが入り乱れる。その中に能力者じゃない人間が割り込もうとしても、素の身体能力が肉体を強化するタイプの能力者クラスでもなければ足手まといになってやられるだけさ」


なるほどと納得する。

それはそれとしてふと気になったことがある。


「翔は戦闘員じゃないんじゃないのか?何だか詳しいけど……」

「ああ、カケルがやったことは僕も見えてるし、ちゃんと感覚とか記憶にも残るんだよ」

「あー、それで詳しいわけか」

「そういうこと」

「……翔、これ置いとくわよ」

「ああ、ありがとう枯葉。それじゃ、検査始めようか」


翔は採血針を袖をまくった俺の左腕に近づける。

思えば、覚えてる限りでは注射にしろ採血にしろ針を刺されるのは初だな。

そんなことを思っていると、いつの間にかチクッと一瞬。

採血はすぐに完了した。

本当に速いし痛くないんだなこれ。

チクッとしますよ~。

大丈夫、痛くないからね~。

これらは決まり文句ってだけでホントに痛くないとは思わなかった。

まあ種類によっては痛いのかもしれないけど。


「んじゃ、調べるから個室で待ってて。明日の朝には終わるから」

「個室?そんなのあるのか?」


そんの説明受けてないんだが。


「あれ?聞いてないの?部屋の数が足りてないから穂ノ原さんと同室とは聞いたけど」

「はっ!?!?」


唐突に告げられた事実に頭がパンクしそうになる。

いやいや、個室が同室てマジで……?


「マジだよ」

「ナチュラルに心読むな。絶対適当にマジだよって言ったろ」

「何の事かな?まあ一応、清弘さんに確認取れば?」

「そ、そうするわ……」


かくして、俺の新たな日常の幕が上がるのであった。






















「これは……なるほどね。清弘さんの予想は外れてなかった訳だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る