悪役令嬢は諦めないー兵士は今日も溜息をつくー

シルマ

本編 

プロローグ

「……何をしているのですか?デスパイネ公爵令嬢様。」


「何をしているのですかですって?決まってますわ!東の国の物語でスープを格子にかけることで、脱獄をしたという泥棒がいたと言うのなら、実践するのみでしょう。さあもっとスープを持ってきなさい、兵士!」


「……それを聞いて差し出す馬鹿がいると思いますか?」


俺は呆れながら、格子の扉越しにどや顔をかます令嬢を見る。

緑豊かな国、ファルコニア。デスパイネ家の長女にしてこの国の王太子殿下の婚約者であらせられた公爵令嬢、フラヴィア=デスパイネ。

彼女は現在、北の塔にて幽閉されていた。


詳しいことは1兵士の俺では何ともいえんが。どうも王太子の心変わりで婚約破棄を叩きつけられた挙げ句、更にデスパイネ家は政敵に嵌められて、 一族連座で30日後にはこのお嬢様も処刑なんだとか。

家は取り潰しだろうし元とつけた方が分かりやすかったかもしれない。


ショックで泣いているかと思えばとんでもない。このお嬢様、とんだ食わせ者だ。

流石に幽閉初日に、ベッドシーツ破って紐を作り、窓から脱出しようとするとは、この塔に幽閉を指示した王も思うまい。俺も見たときには顔が青くなった。


「そこは、言われもない罪で幽閉されている憐れでか弱い美少女の言うことを聞くものでしょう?」


「数日前、着替えを持ってきたメイドを気絶させて服を交換して脱出しようとしたお嬢様がか弱いというなら、きっと野生のカウの突進もじゃれてるだけなのでしょうね。」


野生のカウの突進は、ベテランの兵士でも上手に盾で受け止めなければ吹っ飛ばされるものだ。それはどうでもいいとして。


デスパイネの家のお嬢様は、膨れっ面で此方を睨んでいる。

金色の髪は、風呂に入れないからだろう少し脂ぎっており、目の下には隈もある。それでも。青空のような瞳には、生きてやるという強い意思が秘められていた。


これは、塔に幽閉された公爵令嬢と、それを処刑の日まで見守る1兵士の他愛ない、しかし必ず終わりが来る日常の話である。

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