-22話
「ありがとう、拾井君。ちなみに他にもメンバーがいるんだ」
壱岐は拾井にさっき生徒会で提出しようとした申請書を見せた。
「顧問、伍紙先生になっているが、それはいいのか」
玖雅先生が口を挟んできた。
大丈夫大丈夫。
……間島先輩が先生の許可を得ずに勝手に書いただけだから。
「このメンバー……やっぱりお前たち、よからぬことを企んでいるな?」
企んでねぇし!
「俺たちはただ、誰かの助けになればいいと思っているだけだ」
「それを助けに行くこちらの身にもなってほしいな」
先生の嫌味に「む」と、壱岐は顔をしかめた。
「先生の手を煩わせるつもりはない。俺たちだけで解決してみせよう」
「生意気だなー」
俺もそう思うよ、先生。
「えー? ナニナニ? どういうこと? 人助けでもすんのー?」
「そんなところだ。この学校にはどうも正義を履き違えている者がいるらしい。誤った道へ進まぬよう正していきたいと考えている」
ごめん。俺はそんなこと全く考えていなかった。
「ああ、あれのことだね。先生が必死に尻尾を捕まえようとしている」
なんだ。こいつも知っているのか。
「すごいねー正義感って言うの? そういうの。ヒーローって感じ」
「拾井君、からかわないでくれ。俺は本気なんだ」
「ごめんごめん。そんなつもりで言ったんじゃあないんだ」
壱岐が明らかに機嫌を損ねても、やつはへらっとしていた。
「話が済んだのなら早く片付けろ。日が暮れる」
実験室はまだ煤だらけのままだ。
「お前のせいで怒られるのは俺なんだからな」
「え~実験に失敗は付き物だよぉ」
限度というものがあるだろ。
「いいか、ここは俺だけが使っている場所でなければお前だけの場所でもない。他の先生も使うということをわかってんのか」
わかってるよぉ~
と、拾井は先生の小言を嫌々聞いている。
「本当にわかっているのか!?」
「わかってるわかってる。帷先生に怒られるんだよね」
「誰が実名を出せと言った!」
先生は慌てて拾井の口を塞いだ。
そして、きょろきょろする。
……誰もいないって。
「ここは生物の帷先生も使うんだな」
「たまにな。今まで一人で使っていただけに居心地が……」
生物の先生は今年から赴任してきたって、始業式で紹介されていたな。
にしても玖雅先生……子どもみたいなことを言うなぁ。
「ほら、いいからさっさと片づけろ」
「へーい……」
拾井は渋々、呪文を唱え始めた。
「戻れ~戻れ~」
何だ、そのいい加減な魔法は……
「お前たちもここを使うのは構わないが、散らかした後は片付けておけよ」
「はーい」と、俺たちは返事をした。
「失礼しまーす……」
するとそこへ、誰かが扉を開けて顔を出した。
あ。
「香坂さん!」
今日は用事があって来られないといっていた、彼女がそこに現れた。
「帰っていなかったんですね」
「間島先輩に二人はここだって聞いて……」
わざわざ来てくれたのか。
「ちょうどよかった。今交渉が終わったところだ」
佳一が彼女にここに来るまでに何があったのか説明をした。
そうなんだね。と、彼女は頷いた。
科学部に間借りをする形になっても構わないようだった。
「香坂さん……本当にこんな部に入ってくれるんですか?」
俺も入るとは一言も言っていないが。
「いいよ。でもね……ちょっとお願いがあって……」
「お願い?」
彼女は恥ずかしそうにもじもじする。
「掛け持ち……でもいいかな……」
掛け持ち?
「え、他に部活やってたんですか」
てっきり帰宅部かと思っていたが……
部に入っててもおかしくないよな。
「ううん。何もやってないよ! じ、実は今日ね……スカウトされちゃって……」
「スカウト!?」
俺が素っ頓狂な声を上げると、香坂さんは慌てた様子で「ち、違うの!」と言った。
「表現がオーバーだったね、ごめん。演劇部の人から、劇に出てほしいと言われて……さっき話を聞きに行ってたの」
それで用事があると言っていたのか。
「何でまた演劇部……」
「わからない。二人と同じクラスに千ヶ崎ていう子、いるでしょ? その人に誘われたの」
いる。
漫画にでも出てきそうな縦ロール髪のお嬢様みたいなやつ。
嫌でも目につく。
何者だろうとは密かに思っていたが、演劇部だったとは。
しかしどうしてそんなやつが……
「恥ずかしいけど……やってみようかなと思ってて……」
「いいんじゃないですか。頑張ってください」
「ああ、俺も応援しているぞ!」
「ありがとう、二人とも」
自信なさそうだったが、俺たちの言葉を受けて、香坂さんは嬉しそうに顔を輝かせた。
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