喫茶店

 親友が喫茶店を経営しだした。

 今どき珍しい純喫茶で、私宛に(最初の客になってほしい)、と手紙が届いた。

 親友とは幼いころからのつきあいだったが、私とは違いかなり優秀で、よく出来た奴だった。

 私が血眼で勉強してやっとこ三流大学に入ったのに対し、親友はそんなに勉強することもなく世界でも指折りの大学に入学したが、私のことをバカにすることもなく卒業後も今日まで親友として接してくれている。

 そんな彼からの招待だ。

 私は誇らしい気分で家を出た。


 案内状の地図通りに道を進むとやがて、森の中へと入っていった。

 舗装など全くされてない獣道である。

 不安になりながらも進んでいくと、急に拓けた場所に出てた。

 そこには雰囲気のある洋館があり、扉にはアルファベットで親友の名前が書いてあり、その後ろに(cafe)と書いてあった。

 しかし、その扉の小さいこと、大の大人が体を精一杯縮めて、身をくねらせてやっと通れる幅である。

 汗びっしょりになり、肩の関節が外れそうになりながらも私はやっとのことでその扉をくぐりきった。



『いらっしゃい、遅かったじゃないか』

 奥から親友がにっこり笑って私を迎えてくれた。

『やあ、オープンおめでとう…』

 乱れた呼吸を整えながら私は言った。

『それにしてもなんであんなに扉が小さいんだ?お客さんによっては通れないし途中でつっかえちゃうぜ?』

『ああ、そのことか…』

 親友は手慣れた手つきでコーヒーを淹れている。

『せっかくいい大学を出たんだ。学歴を活かした喫茶店にしたかったのさ』

『……………』

 目の前のカップにコーヒーが注がれる。

『………それで、"狭き門"にしたってわけだ』

『そいういうこと、なかなかジョークが効いてるだろ?』

 

 店内はコーヒーの芳しい香りでいっぱいになっていた。


『君、昔っから頭はよかったけど、商売の才能はまるでないみたいだね』

 私の体は冷え切っていた。

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