第54話 酒びたりの皇太子
そして、魔獣の出現回数はどんどん増えていったわ。
1匹の時もあれば、複数匹の時もある。
最初は、数日おきだったけど、間隔も短くなっていった。
魔獣が増えれば増えるほど、けが人は多くなっていく。
私も、消耗しながら、なんとか負傷人の救護を続けたわ。フランツ様も毎回の出陣で大活躍していたけど、さすがに疲れてきていたわ。
いや、フランツ様だけじゃない。みんな疲れきっていた。
魔獣は、いつ出現するかもわからないから……
そして、最大の問題があるの。この砦の中で、最も疲れきっている皇太子様のことよ……
最初の出陣で、無能をさらけ出してしまった彼は、完全に信用を失っていたわ。
軍議の席で、発言をしようものなら失笑が起きてしまう。魔獣を倒すために、出陣しても、トラウマでしどろもどろになってしまい具体的な指示はだせなくなっているそうよ。
チャーチル少将がカバーして、なんとかトップとしての体面を保っている状況。
これでは、きちんとした対策を打ち出すのも難しく、場当たり的な魔獣対策しか取れなくなっている。
兵士たちからは、不満と失望の声しかあがらないわ。
「ニーナ、穀物の件、ありがとう。キミが、事務仕事を受け持ってくれていて本当に助かるよ。救護活動も忙しいのに、本当に申し訳ない」
「いえ、みんな大変な時ですから。カバーできるところは、お互いにカバーしていくのが最善ですわ」
たび重なる戦闘で、辺境伯領の農地も荒れていき、避難民も増えていったわ。
このままでは、領内全域で食糧不足になる危険性もあったから、パニックを沈めるために、フランツ様が備蓄していた非常食を、少しずつ市場に流していき、混乱を最小限にしているわ。平時に、非常食の書類を作っていたおかげで、どこになにがあるかやなにが不足しやすいのかある程度、わかっていたのが大きかった。
あの経験がここで生きている。まじめに仕事をしていてよかったわ。
これ以上、食料事情が悪化したら、事前に準備していた配給制を
なるべく、早く事態を解決したい。
その気持ちが私たちを焦らせた。
「(うるさい。お前はクビだ。俺は、皇太子だぞ。なのに、どうして、兵士たちは俺を笑う! チャーチル少将、お前の監督不届きが問題だろ! さっき食堂で、俺をにらみつけていた兵士たちをとっ捕まえろ。あいつらは、不敬罪だ。即刻、軍事裁判で処刑してやる)」
皇太子様の怒声が隣の部屋から響いてくる。また、やっているのね。
「まいったね。酒びたりだ」
フランツ様は、ため息をついたわ。
「チャーチル少将も大変ですね」
「もう、慣れっこだと笑っていたけどね」
戦場から帰ってきた皇太子様は、完全に常軌を
「(いいか、俺の命令は絶対だ。なぜなら、俺は皇太子だからな。臣民は、俺を尊敬しなくちゃいけないんだ。わかっているのか、チャーチル!!)」
もう、事実上の指揮権は、フランツ様とチャーチル少将が持っているわ。軍紀でも、司令官が正常な判断ができない状況になったら、次席指揮官が軍団を
面倒なのは、司令官閣下が、皇族という事実だけ。もう、彼が前線にいるだけで士気が下がるほどの悪影響が出ている。
「皇帝陛下には、先日、手紙を送付した。すぐに、殿下は
フランツ様は、無理やり言葉を選んだ感じね。
「大変です! また、魔獣が現れました!!」
伝令が、大声で砦に駆け込んできたわ。
「嘘、昨日倒したばかりなのに……」
「大丈夫だよ、すぐに倒してくるから……」
フランツ様は、私の頭を優しくなでて、剣を持った。
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