第31話 湖デート
そして、私たちは次の目的地のネーデル湖に向かったわ。
帝国最大の湖にして、この季節は雪も解けて、少しずつ花が奇麗に咲き誇る名所ね。
帝国は比較的に寒冷な場所だから、5月にならないと雪が解け切らないのよね。私の卒業パーティーが3月の上旬だったから、辺境伯領での生活ももうすぐ2か月経つのよね。いろんなことがあったな。
「大寺院は、やっぱりすごかったね」
「はい、私もあこがれの場所なので、訪問できてよかったです」
「そうか、やっぱりニーナもあこがれているのか。妹もいつか白馬が似合う貴公子とあそこで永遠の愛を誓いたいといつも言っているよ」
そう言って、フランツ様はゆっくりと笑ったわ。
「ちょっと、かわいらしい少女趣味なので、恥ずかしいですね」
「そんなことはないよ。たしかに、帝国でも強い女性があこがれの対象になってきている。2代前の女帝ヴィクトール様も名君の誉れ高い女性だし、少しずつ官職に就く女性も増えている。だけど、強さと可愛らしさは、共存できる。むしろ、それが武器にすらなると僕は思っているよ。ニーナは、憧れに向かって突き進む強さもある。でも、今のニーナだって、とても素敵な女性だよ」
「あ、ありがとうございます」
うう、そこまではっきり褒めてもらえると嬉しいけど、恥ずかしいわ。
そんなことを話していると目的地に到着したわ。
大きな湖の周りには、たくさんのピンクの花が咲いている。心地よい春風が吹くと、ゆっくりと花びらが落ちていく。
「素敵な場所ですね」
「うん、ここの花は、東の国が友好の象徴としてプレゼントしてくれたものらしい」
「そうなんですね。外国には、こんなにきれいなものがあるんだ……」
私はずっときれいな花に目を奪われていたわ。私はしょせん18歳の小娘。知識なんて、本から知ったものがほとんど。
ずっと狭い世界で生きてきたから、こういう生の美しさに触れることができないでいたのかもしれないわ。
もっと広い世界を知りたい。できれば、このままフランツ様のお側でお仕事をして、広い世界を見ていきたい。
それが私の夢。彼の恋人や妻になるなんて、そんな資格はないけれど……
なら、秘書のように仕事面だけでも、私は彼のそばにいたいのよ。
神様だって、これくらいの贅沢は許してくれるはずよね。
湖を歩いて散策する私たち。たまに、少しだけお互いの手がぶつかってしまう。その瞬間が、どうしようもなく心地よくて……
そんなささやかな幸せを感じていたかった。
「ニーナ?」
「はい?」
フランツ様は、私に向かって手を差し伸べてくれた。これはいったい……
「ここは足場が悪いからね。エスコート、させてくれないか?」
白く美しい手が私に差し伸べられた。私は、迷わずに彼の厚意に甘える。
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