第17話 恋
馬車の中で、私はナヨナヨしていた。
「ねぇ、マリア? これは本当に似合っているのかしら? なんだか、すごく不安なんだけど……」
「大丈夫ですよ、それが一番似合っている組み合わせと、お店の人も言っていたじゃないですか!」
「そうなんだけど……やっぱり不安なのよ。スカート短すぎない?」
「ドレスに比べたら短いですけど、普通の長さですよ。街の子たちなんて、もっと短いですからね」
私は、試着していたものをそのまま着て帰ることになったの。
春物の黒いトップスと、ふんわりしたチェックのスカートをおすすめされるがままに買ってしまったんだけど……
わからないことだらけで不安なのよ!
皇太子様の婚約者だった時代は、服ですら諸外国や国民に対してのメッセージになるから、細心の注意を払って、フォーマルなものを着なくちゃいけなかったから、こういうオシャレのためのファッションって全然わからないわ!!
「でも、こんな服装はじめてだから、不安よ」
「大丈夫ですよ。肌の露出なんてほとんどない服装ですし、普通にお仕事にも行けるくらいのカジュアルさですからね」
「うう……」
「もう、ニーナ様、可愛すぎますわ」
年下の子に、不安をぶつけるなんて今まで考えられなかったわ。自分にこんな弱いところがあるなんて、驚きよ。
そんな情けない姿の自分が、本当の自分なんだけど、ね。
「フランツ様に笑われたらどうしよう……」
「大丈夫です。お兄様は絶対に褒めてくれます!」
「社交辞令かも……」
「もう、そんなネガティブにならないでください!!」
はぁ、考えれば考えるほど、悪い方向のことを考えてしまうわ。
「でも、ニーナ様?」
「なに、マリア?」
「ありがとうございます」
「えっ?」
突然のお礼にわけがわからなくなる私。
「私たちを信頼してくださって。こんなに、ニーナ様が女の子になるとは思っていませんでしたわ」
「もう・・でも、そうね。私は、あなたたちを家族と同じくらい信頼しているし、愛してるわ」
「ふふ、ならいっそのこと、本当の家族になってしまってもいいんですよ」
「それはだめよ。私みたいな、キズモノは……ふさわしくない」
「そんなことないと思うんですが――」
「国務次官就任辞退の件もあるわ。私が、あなたたちの本当の家族になってしまったら、さらに迷惑をかけてしまう。皇室との関係も悪化するかもしれないわ」
「本当にニーナ様はお優しいのですね」
「ありがとう、マリア」
「でも、妹分として、長年の友人としてひとつだけは言っておきます。無意識でその人について考えたり、自分のファッションがその人にどう思われるかを不安になるのは――ニーナ様が、我が兄であるフランツに"恋"しているからではありませんか?」
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