第5話 怪力少女

外に出るともう、空はすっかり夜の闇に包まれていた。


今夜は曇りがちな天候なのか、この時期に見られる二つの月も無い。


この世界では、3の倍数の月の15日~25日までの約10日間だけ、赤と青の月が同時に上がって見られるのだが、今日は9月の22日で二つの月が同時に見られる日程に入っているにも関わらず、この天候の所為で全く星も月も見えない空になっていた。


ミカゲの推測によると、追手は獣人の様だと言うのだが臭いは人間の様だとも言う。


「もしかするとライカンスロープかも知れないね。」


「ライカンスロープですか?」


コレットが首をかしげながら問うので、もしかしたらまだ今までの人生の中で出会った事の無いタイプの獣人なのだろう。


「今日がせめて曇りがちな天候じゃなかったら、ソイツの正体も暴けるんだけどね。」


セレスは苦笑いをしながら街を疾走する。

その足取りはかなり速かったので、コレットは付いて行くのがやっとだった。


 さっきは命からがらと言う状況になっていたので、かなり普段以上の全力疾走をしてきたが、今度は命までは取られない状況での走りと言う事で、少し気が緩んでいるのとあと、さっきの走りの疲労が全く回復していない状態の身体と言う事もあり、セレスとミカゲから徐々に遅れつつあった。


「セレス、少し休憩しないと。」


ミカゲがセレスを促す。


チラリとセレスが後ろを振り返ると、もう既にコレットの足は止まっていて、息切れした呼吸をやっとこ整えている所であった。


「仕方がない、場所を変更だ。旧王都の礼拝堂遺跡に向かおう。」


「わかり!」


ミカゲは、ヨロヨロと体勢を立て直すコレットに近づき、いとも簡単にコレットを持ち上げる。


「ひぁ!ああ!!わ、私は大丈夫です!」


慌てたコレットがミカゲの腕から逃れようとすると、


「だいじょぶ大丈夫!あちしサイクロプスも持ち上げられるくらい怪力だから、コレットなんて紙切れみたいに軽いぞ!」


と言って笑って走り出した。


その走りは多分、今まで何度となく乗っている馬車よりも軽快で、揺れも少なく快適だとコレットは思った位だった。


 セレスが指示した通り、ミカゲは旧王都の跡地に点在している遺跡の一つの礼拝堂に辿り着いた。


当のセレスは?と言うと、既に到着して追手の御仁を待ち伏せする算段の様子だ。


「あ、ココって・・・・?」


「コレットはこの場所は初めてなのから?ココは、この国がまだトトアトエ・テルニアって国だった頃に使われていた礼拝堂だお!」


「トトアトエ・・・・テルニア、約100年前に滅んだと言われる国ですね。」


コレットは、この街の外れにこんな場所がある事を今まで知らずに過ごしてきたのかと思うと、何て物知らずだったのだろうか?と自分を恥じた。


その様子を感じ取ったのかセレスは、


「な~~に、普段はこの場所は軽い結界で閉じられているからね、アタシらの様な旧王都に深い繋がりを持つ者以外は滅多に近づけない様になっているから、自分を恥じる事は無いさ。」


「そうそう、あちしも久しぶりにこの場所来たけど、昔はよくシスターって人に怒られて~~っと、追手のヤツ結構近い!」


 昔話談議に花を咲かせようとしている空気を読めない追手が、この旧王都礼拝堂遺跡に近づいてきている事をミカゲが察知した。


「ミカゲ、本当に凄い・・・!」


ミカゲの秘めたる能力の高さに驚きを隠せないコレットを横目に、セレス先程仕込んだ魔法陣を発動させる。


コレットは足元から光出す陣が、今までに見た事の無い魔道の魔法陣だと言う事に気付いて、更に言葉を無くした。


この二人は、一体何者なんだろう?と言う疑問と不信感と、淡く芽生えた友情の様な信頼感の様な感情の中で、コレットはこれから発動するであろう魔法に期待を寄せた。

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