第3話 忍び寄る陰謀

「この辺はさ、首都に比べると閑散としているし、街も普段はめっきり寂れて平穏そのものだから、こんなに慌ててこの店に入って来る人なんて居ないんだよね。だから、もし差し支えなかったら事情を話してくれると助かるんだけど。」


 セレスはコレットの青い瞳をじっくりと見ながらそう言った。

コレットも、この辺りではあまり見かけない緑眼に吸い込まれそうな感覚を覚えながら、今しがたまで走ってこの店に飛び込んだ理由を説明し始めた。


「実は今、この街の一番栄えている筈の地域に、隣国ソルフゲイルの使者が視察に訪れているんです。その使者は何と!あの御三家の一人だと言うので、私もこの地に使者の護衛と言う形で駆り出されていました。」


 ドン!!


 不意にセレスがコレットの座る席のテーブルに手を置いた。

コレットは、ビクッ!っと身体を震わす。


隣国の使者が御三家と言う言葉を聞いた途端、セレスは胸の中の奥底から憎悪の様な感情が込み上げてきたのを押さえられなかった。


「え?あの?ソルフゲイルの御三家が?一体こんな寂れた街に何の用があるって言うんだ?」


 コレットは恐る恐る、御三家の詳細について説明をし始める。


「御三家で来ているのはアルヴェント家です。それも次男の方なので、特に重要な案件で動いているとは思えませんが、警戒はしていた方が良いと言う事で私も駆り出されたのです。」


 そう言った後、何かを逡巡する様に視線を床や本棚の方へ巡らした。

どうやらこれから言う事が、確信めいた言葉なんだろうとセレスは思った。


「ほんの先程の事なんです。」


「一体何があったんだ?」


「私は警護なので、どんな局面でも慌てない自信がありました、けれど、この国の総務大臣と御三家が密会して何かを取引している光景を見てしまいました。」


「総務大臣だと・・・・?」


 セレスは総務大臣と面識があるかの様で、その表情は怒りにも諦めとも何とも言えない表情をしている。

その顔を見ているミカゲは、近くでオロオロしている。


「それで話は終わりでは無いんです。私は警護だったので見てしまっても仕方がないんですが、それをヨシとしないと思われる者に今、追いかけられて逃げて来たんです!」


良しとしない者?

それを考えると多分多数存在していてて特定するのが難しいだろうな~と、セレスは頭を抱えた。


 このメルヴィ・メルヴィレッジは今でこそ亜人や竜人などが悠々自適に暮らしている様に見える国になっているが、ほんの何年か前まではそうでは無かった国で、更に100年前に滅んだ国の残党ともなると、滅びの原因となった隣国ソルフゲイルの使者なんて、亡国の敵にしか目に映っていない輩もまだまだ多く存在している事だろう。


「多分、どこぞの血迷ったアホがコレットをソルフゲイル側の人間と勘違いして、捕まえて人質にでもしてソルフゲイルにゆさぶりをかけようとでも思ったのかも知れないね。何と言うか亜人とか獣人とか竜人とか、その手のヤツらは基本的に戦闘とかをちょっとした運動にしか感じて無いのが多いから・・・・」


 頭を抱えながらセレスは、友人知人知り合い縁者の顔を脳裏に浮かべながら首を横に振る。

多分知り合いじゃないだろう~知らない輩だったらイイな?

そう思っていた。


でも、それともその密会をコレットに見せるのが任務だったら?


「もしかしてコレット、嵌められたのかも知れないぞ?」


セレスは頭を上げると何故か、笑いながらコレットにそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る