第26話 竜の心
「ふうん、それで勝手にあたしのクランに五位を入れたわけね?
しかも、たくさんの竜を巻き込んでさ――」
「ご、ごめん……相談とか、すれば良かったな……」
腕を組み、仁王立ちをするソラの目の前で、おれは正座をしている。勢いで、しかもあの状況ではああするのが正解だと思ったとは言え、クランのリーダーはソラなのだ。
彼女の了承くらいはちゃんと取るべきだった。
「やっぱりヨートせんぱいは尻に敷かれてるんですね」
「そうだけど。というか上下関係で言えばソラの方が上だし」
あと真緒、お前さり気なく、いつの間にかおれのことを『ヨートせんぱい』って呼んでる……いいんだけどな、あなた、じゃあ呼びづらい時もあるだろうし。
だけど『ユータせんぱい』と被っている気がするが、真緒からすればそれはいいのだろうか。
「呼び方なんて大抵の場合、被るでしょ。呼び捨てやあだ名でも良かったですけど、ユータせんぱいに、親しそうだな、と思われるのは嫌なので」
「じゃあユータを呼び捨てとかあだ名で呼べば?」
「呼べたら呼んでます」
ユータはそういうの気にしないと思うが――あ、そうか、なるほど。
真緒の方が、呼ぶのが恥ずかしいだけか。
「お前からの好意なんて、あいつにはばれてると思うけどな」
「うるさいですよクズせんぱい」
「誰がクズだ!!」
「わたし然り、五位や伊佐見さんを引き込むところですっ、女の子ばかりじゃないですか!」
「狙ってたわけじゃねえ! というか一人は竜じゃん!!」
「竜差別ですか。竜でも女の子ですよ?」
がrrrr、という抗議の声。
伊佐見、怒ってる?
「……仲、良いのね」
「そ、そう見えるか……? 背後から首を絞められているこの状況でぇ!?!?」
「でも、こっちから見たら後ろから抱き着かれているようにしか見えないけど?」
「当たるべきものが当たらないんだからただ苦しいだけだ!!」
「おいおいおい!? 胸のことを言いやがりましたか死にたいんですねあなたの悲鳴を聞こえなくさせてもいいんですよ!?」
「能力の無駄遣い!! お前ってスパイとか暗殺に長けてるよなあ!?」
技術がなければ宝の持ち腐れではあるが。
しかし確かに、使いようによっては真緒の能力は化けるよなあ……。
「……ところで、わたしは加わってもいいのだろうか」
「いいんじゃない? ヨートが言うなら」
「でも、あなたの……ソラのクランだろう?」
「そうね。でもまだヨートしかいないし、ヨートがクランとして立ち上げただけ。
あたしがそこに関わったわけじゃないの。あたしを冠としているだけで、あたしが中の整理をしているわけじゃないから。
好きにしたら。
あたしにどんな感情を持っていようと、ヨートのことが好きなら入ればいいんじゃない?」
「……ソラはいいのか?」
「だからいいって――」
「ヨートとの二人きりの空間を壊しちゃって」
「……いい、わけはないけどね。でも、やだって言ったら、そんなのもう、あたしがヨートにぞっこん、って宣言するようなものだし。それは
「ふふ、変なプライドね」
ソラとオセが談笑している……、
同じ十位圏内だから不仲かと思えばそうでもないらしい。
でもさっきまで殺し合いをしていたよな……?
昨日の敵は今日の友――全部、今日のことだけどさ。
「あ、でもこういう場合ってどうなるんだ? 十位圏内が十位圏内のクランに入る場合は」
「ルール的には問題ないな。クランが統合されるだけだ。わたしを信頼してくれている竜たちは、わたしを信頼したまま、まとまった信頼がわたしからソラへ送り込まれるものだと思ってくれればいいと思う……、分からなければ聞けばいいと思うけどね。
呼べば出てくるでしょう、支配者はルールブックなんだから」
NPCに聞けば誰でも答えてくれるらしい。
伊佐見の声を聞ける真緒が教えてくれた。
「でも、わたしはしばらく別行動をするつもりだ。
ソラのクランには入るけどな、二人の邪魔はしないよ」
「別に、気を遣わなくてもいいのに――」
「そういうわけじゃないって。江乃のこともそうだけど、裏日本に散らばる竜たちをまとめておきたいんだ。今、わたしのクランにいる竜は、そう多くはない……、わたしが乱暴に扱ったせいでもあるんだけど……みんなのお墓だって作りたいしね。
だから、それが終わったら、二人の元に戻ってくると誓うよ」
「好きにしたら?
同じクランだからって、同行しなくちゃいけないわけじゃないし。
ほらそこの子も――」
ソラが真緒を指差す。
「四位のクランの子でしょ? でもこうして単独行動をしてるじゃん」
「四位のクランですけど、わたしはユータせんぱいしか信用していませんから」
「ん、そっか。で、真緒、お前はこれからどうするんだ?
そう言えばユータの能力を奪った犯人を探すために、オセに噛みついたんだろ?」
「え、わたし?」
オセが驚いた様子で、
「能力が奪われる……、風の噂で聞いたことはあるわね」
「風の噂か」
「あ……ごめん、ハヤテのことを思い出させちゃった?」
「そういうわけじゃない。おれのこと、女々しいやつだと思ってる?」
「男の子でも、友達が死んだら引きずるでしょ?」
すんなりと切り替えることはできないけど……、そうだな、しばらくは引きずるな。
だって、おれがあいつを改心させたから、喰い殺されたとも取れる。
それはオセの命令ではないだろう――、
竜がご主人のために行動した、独断専行だとも言えた。
「あいつも、どこかでNPCとして生き返ってるだろ」
「だったら、いいわね」
互いに微笑みあって、ひとまずハヤテへの感情には区切りをつけた。
すると、
「で、能力を奪われた件は知らないんですか」
「そうね、噂ってだけで、はっきりとは……、
でもそういう能力者がいてもおかしくはないと思う。能力を奪う能力――あり得るわね」
ないとは断言できない。
ない能力などないだろうしな。
「……五位なら知ってると思ったのに」
「ごめんなさい、役に立たなくて」
いいですぅ、とそっぽを向いた真緒。懐かない猫みたいだ。
そういう情報は、上位であれば上位なほど、集まりやすくなっている。五位で分からなければ、じゃあ四位とか三位とか――、二位であれば確実に知っているだろう。
「四位に聞けよ、お前のクランじゃないか」
「嘘つき野郎に聞くことはないです」
嘘つき野郎って……、一応、お前のクランのリーダーだろ。
「ただの数合わせですからね。わたしの信頼はユータせんぱいだけです。
ユータせんぱいは、あの嘘つきを信頼しているみたいですけど」
真緒のユータへの信頼が、そのまま四位へ繋がっているわけか。
まとめて四位に注がれているとしたら、やっぱり数の利は強力だ。
いくら質が良いとは言っても、数人のクランで太刀打ちできる四位のクランではないだろう。
「能力の強奪事件に、第二位の脅迫か……色々と厄介な問題が残っているな」
「別に、ヨートが全部を解決する必要はないでしょう?」
ソラの言う通りだ、おれが進んでやるべきことではない。
結局、おれは他人任せではないが、それでも他人に助けられて、ここまできている。振り返ってみれば、おれは今回、自分の能力を使っていないのだ。
使いどころが限られている能力とは言え、だ。
終盤のソラのように、誰かからの信頼を得て、能力の強化を期待することもできる……まあ、おれにはそういう信頼を寄せてくれる仲間なんて、ソラくらいしかいないだろうし――、
『おい』
と、オセと真緒が声を揃えて、
「ん?」
「自覚なしですか? ……教えるのは癪ですね、自分で気づけばいいです、バーカ」
「オマエは大物になると思うぞ、ほんと」
真緒がおれの腹を小突き(本人はパンチをしているようだが)、
オセがおれの肩をぽんぽんと叩き、そんなセリフを置いていく。え、なに?
「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ――なあ、伊佐見」
竜は、ふんすっ、と鼻息を吐いて返事をしてくれた。
『バカね』と言われているようだった。
「……竜の心って、分かんねえ」
「あんたが分からないのは乙女心よ」
―― part2 竜の心 完 ――
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