第45話 未知との会敵

『嫌な予感がする』

奇遇きぐう。私も。外れてくれると嬉しいんだけど』


 テレパシーで会話をしながら、二人は互いに離れた状態のまま同時にポーチへと触れた。


「「!」」


 彼女達の呼びかけに、ポーチは緑に淡く光る直径六センチの五つの玉へと変化した。

 五つのリフューラはまるで其々それぞれが意志を持っているかの様に一定距離を保って浮遊している。


『索敵は私が』


 知美ともみあやつる玉の内二つが海に飛び込む。


『どう?』

『銀粉が邪魔で読み辛い。もう少し増やす』

『オッケー、補助は私に任せて』


 知美のリフューラがさらに一つ海へと飛び込む。

 これで彼女の周囲を漂う玉は二つとなったが、それを補うように洋子ようこの放ったリフューラが二つ、知美のそばに飛んできた。


『ありがとう。これで少しやりやす――、ッ来るわ!』


 海の中に小さな水柱が上がる。


「作業中の皆さんは退避を!」


 水柱は敵の攻撃ではなく、索敵に使っていたリフューラで攻撃した為だ。


『なんだ、あれ』


 爆発のあった海面が、赤潮あかしおでもあったのかと思うほど赤黒く染まっている。


『気味悪いな』

『油断しないで。当たった手応えはあったけど倒せてない』

『分かってるよ、そんな事』


 相手の全容が分からない今はまだ迂闊うかつに動けない。

 爆発したリフューラは三つ。二つを解除して五個に補充し直すべきか。


『そのまま。来るよ』


 薄紅色うすべにいろのきしめんのようなひもが高速で海中から飛び出し、知美めがけて直進する。

 彼女は何本かを手でつかんで止め、残りを半身で避けながら紐が伸びてきた海中へとリフューラを射出した。

 小さな水柱が起こると、紐は力なくれ下がる。

 力を込めて引くと、千切れた赤黒いモノが水面に上がって来た。


「手? 気持ち悪い」

『気を付けろ。いつものアルカンシエルと違う』

『分かってる。リフューラを途切れさせないようにして』


 ポーチに触れて再度武器を展開する。

 すると再び、海面から何本ものひもが殺到して来た。


『やっぱり、私達を優先ゆうせんで狙ってくる』

『合流しましょう。単独で戦うのは不利』 


 狙いが分かっているのなら、相応の戦術で臨むまで。

 未知の戦法を駆使して来る点は厄介だが、


『どうやって海からり出す?』

『少し下がってみる?』


 知美は適度に応戦しながら内陸ないりくの方へと後退する。

 その間に、離れていた洋子と合流を果たした。


「やっぱり、釣れないか」

「……いいえ、アレ」


 海からもそりと赤黒いシルエットが姿を現す。


「あんなの見た事ないぞ」

「動画で記録に残すわ」

「……生け捕りとか言わないよな?」

「まさか。しっかり仕留める」


 のそのそと、見た目はすきだらけの動きでりくへとい上がって来る。


『もう少し引き離しましょう。海に逃げられると厄介だから』

『あと六歩寄って来たら奴の背後にリフューラを二個配置する』


 退路を塞ぎ、正面から力でねじ伏せる算段だ。


魔法マホゥ少女ショウジョ

『コイツ、しゃべッ……』


 洋子が取り乱した瞬間、赤い人型が突進してきた。

 知美が冷静に三つの玉を前方に配置し、それでも勢いを殺せない場合に備えて洋子を軽く突き飛ばす。

 人型はリフューラを避けるでもなくそのまま突進し、弾に触れた瞬間に爆発を起こした。

 普段なら白い銀粉が飛び出すのだが、その人型からは血飛沫が上がる。


『なんだこいつ!?』

『取り乱さないで。多分アイツ、行方不明になった人達を中に取り込んでる。もう死んでるでしょうけど』


 どうして、という疑問が湧いてくるが、躊躇ちゅうちょしていてはやられる。

 三つのリフューラの直撃を受けて尚、人型は上半身の半分を欠損しただけで元の形へと再生していた。

 普通の人型ならば一個の玉で木っ端みじんになる。


『見た目通り、かなり銀粉純度ぎんぷんじゅんどが低いみたいね』


 相性あいしょうが悪いと知美が顔をしかめる。

 二人の操るリフューラは相手の体を構成する銀粉とエネルギーを利用して起爆する。

 大きく、純度が高いほど相手に大ダメージを与えられるのだが、複数の生物を取り込んで純度が下がったこの人型は、起爆に向いていない。


『戦法を変えましょう』


 知美が空中で両方のてのひらにぎる。

 すると、球形だったリフューラは楕円形だえんけいつぶれ、二つの先端が尖った形に変わった。

 知美が念じるとリフューラは弾丸のように高速で射出され、人型の顔面と胸元に五つの穴を開けた。

 それから一秒遅れて、洋子の五発が貫通する。

 爆破が有効ではない場合の直接打撃モードだ。

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