被害者同好会
晴れ時々雨
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人の話を冷静に聞けるという特性を買われ、然るビルで行われる、とある団体の集会に差し向けられた。詳しくは知らされていないが、扉の上部に「被害者同好会」と札がある。
数名の女性が既に来場しており、見るとそれぞれどこかしらに障害を負っているようにみえる。ある者は片手が不自然に曲がり、杖をつき、口元を覆うマスクをしている者もいた。
何がしか同種の被害に遭い、体の一部機能を失くしたのだとすぐに判った。しかし被害者たちの表情は浮かないというより、困惑しつつも隠し立てしている訳でなく、欠損部位を顕にし時折明確に指し示しながら説明し合っているような状況だった。
それに、入口の「同好会」という名称も「被害者」と矛盾している。
「お忙しい中お集まり頂き、ありがとうございます。お待たせしたようで申し訳ない」
私が発するとざわめきは止み、一斉にこちらを見る様子が一同自分の被害状況をいち早く伝えたくてはやっているようにもみえた。
「では不詳ながら皆さんの被害の程をお受けしたく」
女性たちの胸元には氏名の代わりに番号の印刷されたプレートがピン留めされており、その順番通りに話を始めた。
皆一様に、ある人物について語りだす。
「あたくしは指を食われましたの。温室のベンチであの方と語らった時、彼は手の甲に、いやだわ、キスを、うっうん、してくれたんですの。それがどんどん熱を増していき、君の指は本当に可愛いと言ってガブリ、」
咳払いをしながらそう話す婦人の膝には左手首用の美しい義手が鎮座していた。
「私は閨ででした。その晩私の方にはそんなつもりはなかったのですが、寝台に横になり就寝前の読書をしていたんです。まぁ、あられもないと言われればそうでしょう。何も羽織らぬ無防備な素足に、あの人はそっと唇を寄せてきた。私は本に夢中でしたので無視しました。すると突然膝に衝撃が走り、あまりの痛みにあの人の顎を蹴っ飛ばしてしまいましたのよ。ほ、ほ、ほ。」
周りの女性たちに説明するためか、その女の人はズボンを捲りあげ、燃えた枯葉の張りつく蝋のような白い足を剥き出しにしていた。
「そうですわね、あの方は情熱的ですから、そういった淫らな心理が働きだすと女の体に噛みつきたい衝動に駆られるんだと思います」
そう述べた女性は傍らに杖を置き髪を耳に掛ける仕草をしたが耳がなかった。
「もうご存知かもしれませんが」
滑舌が芳しくなく、喋りにくそうに婦人はマスクに手を掛けた。
伏し目がちな長い睫毛の下半分を赤く爛れた皮膚が覆い、欠けた筋肉の隙間から僅かに口の中の歯が見えた。
好色な資産家のめくるめく噂を聞いたことがある。私の雇用主は妙な顔の広さがあり、プライベートでどのような交友関係を築いているか知らんが、まさかのまさかのようだった。
愛し合う者たちのあからさまな行為は他人が直視してはいけないグロテスクさがある。ただ、一人づつは幸せそうなので特に問題はないだろう。
切り花には切り花の美しさがある。
羨ましいことに、選ばれた者だけが日々広大な農場で切り花を生産できるのだ。
被害者同好会 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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