家畜

 ある日ゼロは、自分だけの動物が欲しい、とそう言った。

 きっかけはゼロと一緒に国近辺の草原で狩りの真似事をしたときのことだった。

 イェードは、おおかみの中に人になつくものがいることをこの地で知り、いくつかを飼いならしていた。するどい嗅覚で敵の獣や狩りの対象を発見するのにも役立つのだ。

 それは、概念がいねんの名もない、後に家畜かちく、あるいはペットと呼ばれる生き物だった。

 毛並みを整え、立派な扱いを受けた、生後一ヶ月ほどの『お狼様』がゼロへと献上けんじょうされ、ゼロはとても喜んだ。母のアルルと共にたわむれる、良い時代を感じさせられた。

「あまり動物を愛するようになると、肉が食べられなくなるかもしれないな。

 それは困る」

 アザトも大抵食が細かったが、肉はちゃんと食べるのだ。

 動物に対する慈悲も対してもっては居なかった。

「国のみんな、一人ひとりが動物を愛するようになれば……」と言いかけたゼロだが、口を次ぐんだ。

 いつものようにしばらくの間、ゼロが考えた答えを出すのを待つアザトだった。

 ゼロが口を開く。

「お肉が食べられなくなりますね」

 アザトが笑い、

「うむ。動物はあくまで、我らのかてでなくてはならない。

 その狼は例外だ」

「大人しい草食獣を連れてきて、国中で飼うのはどうでしょう?」

「ふむ、どうだろうな。

 草を食べる生き物の全てが大人しいわけではないし、少なくとも生えている角は切り落としておく必要はありそうだな」

 何事も先んじるアザトだった。

 アザトは翌日すぐにイェードに軍隊の出動をさせ、そうした動物の『回収』を命じた。

 イェードは出来るかどうかわからないというていだったが、アザト国王が自ら、草木を大量に集める部隊、飼いならすための柵を作る部隊、実際に動物を回収する部隊、といった風に部隊編成をしてしまった。

 大きく軍勢が動き、戦争でも起きるのかと不安がる国民をなだめるのは、発案者のゼロの仕事だった。

 子どもから話を通じ、『大きな狩りをするそうだ』、というような感じ。

 苦労はあったが、遠征えんせいじみた『冒険』の末に多数の草食獣を連れて帰った。

 加工された肉以外の、生きている四足動物を見るのが少なかった子どもたちは、実際に人口のある国の集落の外から連れてこられた動物を見て様々な反応を示したという。

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