しとど晴天大迷惑

 イェード隊がアザト村に戻る、そのおよそ中間地点でまたボルテクスが来た。

 できる限り雨雲あまぐもけて移動していたが、相手のほうから来るのはどうしようもないことだった。

 太陽が雲に覆われ、雨が降り出し、そして雷が落ちて光の後で音が鳴り響いた。

「魔法生物め」

 イェードは剛弓を構えると、ボルテクスに向けて矢を放った。

 矢も、剛弓に合わせた特別製の大型弓である。先ほどの村から貰ったのだ。

 落雷が矢に落ちるが、破壊しきれなかった正確な矢がボルテクスの中心にぶつかる。

 赤い何かが、何もないはずの空間から流れ落ちる。

 ボルテクスは無言に見えたが、たじろぐように若干態勢がずれて、上下左右斜めに動く。

「凄い!!」

 誰かが声を上げ、他の者もさらに矢を放つ。

 怒ったように落雷が枝分かれして放たれ、矢を粉砕する。

 並大抵の矢では粉砕されるのみだが、イェード隊とボルテクスとの高度差は小さめの山ほど。

 自然の落雷ほど大きな規模ではないが、光っている時間が若干長いことが気がかりだった。

 自然の雷は本当に一瞬、稲妻が落ちるのみだが、ボルテクスはそれを自由に操れるのかもしれない。

 おそらくは、かなり魔力などの消費は激しいだろう。しかし全力で放たれれば、班の一つくらいは消し炭にされるかもしれない。

 戦いの中で、イェードは気がついた。

「雷が落ちるときだけ、奴の中心に目が出てくる!」

「どういうことです?」

「俺にもわからん。

 雷の攻撃の時に目を開ける必要があるんじゃないのか? 

 それが見えるんだ!

 まずは一斉射してくれ!!」

 イェードは合図を送り、「放て!」と部下たちに命ずる。

 ボルテクスは魔力で光を屈折させて自身の姿を隠す事ができたが、重要な移動の時や相手を狙って攻撃するときには目の部分だけ屈折を解く必要があった。

 イェードは、それに半分以上気がついたのだ。

 一拍遅れて、イェードが矢を放つ。

 全て狙い通りで、前の矢が落雷で落とされるときに開かれるボルテクスの目を貫いたのだ。

 轟音。稲妻が落ちるどころか、上空にまで跳ね上がり、またぶつかった大地が勢いよく焦がされる。

 痛みに暴れ、無駄に稲妻を消費するボルテクスだった。

 その隙を逃すお人好しはらず、次々に矢が着弾し、ボルテクスは地面に落ちて死に絶えた。

 その瞬間に、大粒の雨が膨大ぼうだいな量落ちてきて、雲が弾け飛び、そして晴天となる。

 魔力に命を失ったボルテクスは、白く巨大な毛玉だった。

 確認しにきたイェードが、ファングボーンで死骸しがいを動かす。

 それは、二つの目の一つと、全身から刺さった矢で赤い血を流していた。

 その中心には獰猛どうもうな牙が生えており、一応はこれで捕食するようだった。

 良い毛皮になりそうだったが、こんな得体の知れない生物の体の一部を処理し、身にまとうのも嫌だったので、他の生物が食べてくれるのに任せることにした。

 すぐに猛禽もうきん類が飛んできて、大きな食事にありつこうとしていた。

 食べる気にもならないので、イェード隊はなんとか歩き、無事に村へと帰った。

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