三つ巴の戦い

 現地の言葉で、『木組みの村』あるいは『木でできた村』といった意味の名前の村だったが、戦争が起きて悲惨な事態となっていた。

 それを幸運と見たのが、現地の言葉で『大きな村』という名前の村だった。

 もっとも、『木組みの村』からは『二番目の村』と呼ばれていたが。

 『大きな村』は、その昔は盗賊まがいのことをして生計せいけいを立てていた男が取り仕切っている村で、五、六〇〇人ほどが暮らしていた。

『木組みの村』とは折り合いが悪く、狩猟しゅりょう採集さいしゅうを巡って殺人を含む複数のいざこざが起きていた。

 戦争が起きてすぐに気付いた男は、『木組みの村』を制圧しようと大部隊を率いて『木組みの村』に向かった。

 率いられた男は三〇〇人にも上る。

 火炎魔法で柵が焼かれ、壊れていく『木組みの村』。

 彼らにとって誤算だったのは、ニクラムが率いていた隊を構成する大半が戦に秀でたもので、さらに、たまたまその地に獰猛どうもうな四足獣である魔獣『イェルダント』がおとずれていたことだった。

 まずは矢を遠投するが如く無差別にその『木組みの村』に向けて男どもがった。

 一〇〇〇近い矢が放たれ、その後で野太い大声を張り上げて突撃する『大きな村』の男ども。

 その手には木や骨を加工した棍棒こんぼうがあった。

 イェードは殺した。

 抵抗する『木組みの村』の者たち、さらに来た『大きな村』の者たちも。

 剛力を持つイェードを強敵と判断した『大きな村』の長だった(他にも『木組みの村』の中の各地で戦闘は起きていたが、たまたまぶつかったというのも大きい)。

 骨の棍棒を構え直すふりをして、腰からあるものを引き抜き、イェードに向かって投擲とうてきする。

 それは骨製のナイフ。

 投げナイフだった。

『大きな村』の長は、人間にできる僅かなすきを見逃さない男だった。

 イェードの隙は僅かの僅か。狙いを定める余裕はなかったが、左太ももに突き刺さった。

 イェードがすぐに投げナイフを太ももから引き抜くころには、彼我ひがの距離が詰まっていた。

 痛みに耐え、応戦する。

 イェードの得物、ファングボーンは頑丈な付き棍棒であり、並大抵の近接武器では対応できないはずだった。

 だが、長の男は狡猾こうかつだった。ニクラムほどではないが、髭を伸ばしており、獰猛な顔立ち。

 何回かの近接戦闘でイェードの動きを把握すると、棍棒を使い捨て道具のようにして、さらに腰から薄く加工された骨の凶刃きょうじんをイェードに向けた。

 それは、肉を刻むのにも、突き刺すのにも秀でた短刀である。

 長の男は、体の各所に複数の武器を持つ用心深い男だった。

 イェードの心臓に向けて突き刺さんと腕を振るった長の男。

 その首、いや肩を含む部分がいきなり消えた。

 そして、影ができたことに気がつく。

 イェルダントは風と同化する。

 それは移動の際に、極度に接近していても音がしないことからそう言われる。

 白い毛と全身にまとった巨体。

 犬と猫と竜を組み合わせたかのような顔をした四足獣で、全高はイェードの倍に達する。

 イェルダントは事も無げに、イェードにとどめの一撃を加えようとしていた長の男を噛み砕き、そして殺したのだ。

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