第一章 原初にて、開闢の地

イェードという少年

 一〇〇人ほどの人々が、凍土を歩いていた。

 人々の列は、ひし形に近い形、やや丸みといびつさを備えた隊になっている。

 イェードという少年は、たまに粉のような雪が胸などに入るたびに不快な思いをしていた。

 皆が服を、外の冷気を通さず、身体の熱を逃さない毛皮をまとっていたが、イェードのそれは少し胸元が破けていて、そこから雪が入るのだった。

 イェードは戦闘要員として隊列の最前列、隊長の手前を歩いていた。

 その凍土を思わせる、やや伸びた銀髪に碧眼へきがん。筋力は強いほう。十七歳になるが、まだ目立つ戦歴がないのが目下の課題であり悩みであった。

 得物は『咆哮ほうこうするもの』という意味の四足獣、『イェルダント』の牙を薄く加工し、そのあしの骨にはめ込んだ、刃付きの棍棒こんぼう――『ファングボーン』だ。

 加工には高い技術を必要とし、物々交換なら肉牛の十頭と比べられるほどの価値があった。

 薄い刃となったイェルダントの牙は螺旋らせんのように棍棒にめ込まれている。

 ファングボーンはイェード自身の身長程もあり、彼の名前もその獣の名前から取られていた。

 製鉄の概念すらほぼない時代であり、武器はこうした死骸しがいの加工品や原始的な魔法しかない。

 大半の者はその地に留まり、イェードのような者たちは故郷こきょうで許されるだけの人数を引き連れ、より温かいとされる場所を目指して隊列を組み、移動を繰り返していた。

おさよ、狼です」

 イェードは隊の長であるニクラムに声をかけた。

 イェードの視力は非常に良いので、遠く離れた敵にはすぐに気がつく。

 さらに今いる場所は、雪がちらちら降っているとはいえ、見晴らしのいい凍土だ。

せている狼です。こちらを狙っています。

 返り討ちにしましょうか」

 イェードは言うが早いか、得物であるファングボーンを構えた。

 魔力が全身から発光し、全身の筋力が強化されているのが外からでもわかった。

 狩りの構えだ。

 敵対種の力を嗅ぎ取った狼が、尻尾をまいて撤退していく。

「イェード。

 十分な戦果だ」

 ニクラムにそう言われて、イェードは複雑に嫌な気持ちと、面持ちになったのだった。

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