真剣勝負⑦

『左足で決めたぁぁぁぁああああ!! 高坂選手、熊埜御堂選手に続いて2球目で決めたぁ!』


『逆足でもこの精度、既にフリーキックの名手と呼ばれてる熊埜御堂選手と同レベルというのは素直に怖さを感じますね。この世代は一体どうなっているんでしょうか』



 俺は案内の人に誘導され、しばらく待機するよう言われた。

 どうやら表彰のための準備をするようだ。

 遠くで見ていた梨音ともっちーさんがこちらへ向かってきていた。

 と、その前に熊埜御堂がこちらへ寄ってきた。

 お互いのプライドバトルの健闘を讃えにきたのだろうか。


「高坂、お前…………」


「どうやら引き分けみたいだな」


「………………ちっ、今回は俺の負けだ」


 負け?

 結果は同率優勝のはずだけど。


「利き足とは逆でも同じ精度で蹴れるなんて俺は知らなかった。俺は左足しか使えない。俺の右足はおもちゃだ。だから…………今回はお前に勝ちを譲ってやる」


 驚いた。

 プライドの高そうなこいつがこんなにもアッサリと負けを認めるなんて。

 引き分けだと言っても誰も文句は言わないのに。


「結果だけ見れば2球で当てたのは同じだろ? 俺は引き分けでも構わないぞ」


「客観的に見てお前の方が優れていたと判断できるものを引き分けにするほど、俺は自分に甘くない」


 へぇ、意外と自分の中でしっかりとした芯があるみたいだな。


「……まぁ熊埜御堂がそれでいいんならいいけどよ」


「だがこれだけは覚えておけ。今回のゲームでは負けたが俺の真骨頂はフリーキックだ。実際の試合ではいくつもシュートのパターンがある。今日の全てが俺の実力だと思わないことだ」


 なんだ、やっぱりプライドは高いじゃないか。

 サッカーの上手いやつはみんな負けず嫌いというのは当たってるよな。


 当然、俺も今回のゲームで熊埜御堂が実力の全てを出し切っているとは到底思ってはいない。

 こいつはフリーキックの決定率が5割を超えているという化け物だ。

 良くて3割だった俺とは文字通りレベルが違う。

 が。


「試合になれば当然フリーキックだけじゃなくなる。チームが試合に勝てればそれは実質自分達の勝ちだ。違うか?」


「ふっ…………つまり、それ以外で俺を超えると?」


「サッカーってのは、そういうもんだろ」


 今回のような個人間の戦いなら勝敗ははっきり分かるが(引き分けだけど)、試合では個人間だけの勝敗で勝負が決するわけじゃない。やり用はいくらでもある。


「…………高坂、お前は今どこにも所属してないんだよな。怪我はどうなんだ」


「完治にはまだ時間はかかりそうだが、そのうちに復帰する予定さ。それは俺の中で決定事項なんだ」


「ヴァリアブルにか?」


「いや、ヴァリアブル以外にだ」


 どこに所属するのかはまだ決めていない。

 ユースのセレクションを受けてみるのもいいし、うちの瑞都みずと高校に部活で参加するのも選択肢の一つとしては考えている。

 ただ可能性としては大城国だいじょうこく紗凪さなぎのいるFC横浜レグノスが一番高いのかもしれない。

 今期のプレミアリーグでの順位も悪くないみたいだし、なにより同学年であれだけ体の張れるフォワードが前にいてくれるのは心強い。


「ヴァリアブルには戻らないのか……。なら高坂、お前ウチに来い」


「…………え?」


 まさかの勧誘?

 熊埜御堂は川崎アルカンテラだよな。

 確かにアルカンテラユースもプレミアリーグで戦ってるらしいが……まさか熊埜御堂が直接誘ってくるとは思わなかった。


「お前の足があれば俺達のチームはどの角度からでもフリーキックを決めることができるようになる。お前の技術が俺は欲しい」


「はは、どこまで行ってもフリーキック優先の考え方だな」


「当然だ。俺はセットプレーで天下を取ると誓っている」


 最近も色々と勧誘を受けることは多かったけど、フリーキック目当てで誘いを受けるのは初めての経験だ。

 熊埜御堂とのダブルセットポジション。

 確かに想像すると面白そうだ。

 紗凪とはまた違った戦い方ができるだろう。


「今すぐに返答は出来ないな。怪我もいつ完治するか分からないんだ」


「構わん。携帯……はカバンの中だから後で連絡先を渡しておく。いつでも連絡しろ」


 積極的なやつめ。

 にしても最初に会った時よりもかなり喋るようになったな。

 人見知りだったのか、プレイヤーとして認められたということなのか。

 いずれにせよ、意外なところで意外なコネクションができてしまった。

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