真剣勝負④

「finalステージでは狙って頂く的は一つだけです」


 案内人の言葉と同時に掛けられていた幕が下ろされた。

 そこにあったのは小さな的が一つだけ。

 ゴールの中央で1番と書かれた的は、ド派手な金色で輝いていた。


「あちらの的は直径にして約50cmほど。その大きさはボール二つ分に相当します。あちらの的を、2ndステージと同じ距離の位置から狙って頂きます」


 今までの的よりも遥かに小さく、ペナルティエリアの枠から立って指で輪っかを作ればピッタリフィットな大きさだ。

 確かに1st、2ndと比べればシンプルだが難易度は上がっている。

 だが…………。


「この程度、今までと何も変わんねえよ」


 熊埜御堂の呟きに、俺も少なからず同感だった。

 決められた位置にボールを蹴り込むだけならば、的の大きさは俺達にとって障害にはならない。

 キーパーと壁を置いてゴールを決めろと言われる方がまだ難しいかもしれない。


「finalステージでは交互にボールを蹴っていただき、先に的に当てた人の勝ちとなります。持ち球は一人10球。もしも5球打っても両者当たらない場合は、救済措置として1stステージと同じ距離から挑戦していただきます」


 救済措置ねぇ……。

 下手すれば1球で終わるかもしれないのにか。


「その程度か、と落胆しているお二人、安心してください」


 別に落胆はしてねーよ。

 どこの裸芸人だ。

 パンツ履いてるアピールか。


「実はもう一つギミックがあります。あちらのレール、気になっていたでしょう」


 いやまぁ気にはなっていたけども。

 ゴール前に敷かれたレールと、端に寄せられて幕が掛けられている謎の物体。

 いつ紹介されるのかと思ってました。


「こちらもご覧ください」


 そう言って下ろされた幕の中から出てきたのは、的と同じ大きさの穴が空いた壁だった。


 それを見た瞬間、すぐにその意図が理解できた。


 なるほどそういうことか。

 ともすれば確かに厄介だ。


「こちらの壁がレールの上を左右に動きます。そしてちょうど的と重なる瞬間、そこを狙って打ち抜いてください」


 要は、ただ精度を求められるわけではなく、タイミングも求められるらしい。

 以前、テレビでも似たようなことをやっていたのをキックターゲットを調べる際に動画で見た。

 それは走行するバスの窓を通り抜けて的を狙うというものだった。

 それを当てていたのは流石に興奮したものだ。

 まさか同じようなものに挑戦できるとは。


「順番はどうされますか? 本来は成績順にしようと思っていたのですが…………」


「俺が先に蹴る」


 そう言って熊埜御堂が立候補した。

 俺はどちらでも良かったので、順番はそのまま熊埜御堂先行、俺が後攻となった。


 すぐに熊埜御堂がボールをセットし、挑戦する体勢を整えた。

 俺は待機エリアまで下がり、レールに設置された壁が左右に動き始めるのを眺めた。

 意外にも動きはそれほど速くない。

 早歩きと同じくらいか。


『ついに勝負はfinalステージ! 挑戦するのはここまで異例のオールパーフェクトを叩き出している二人、熊埜御堂将太朗選手と高坂修斗選手! ユース界隈では世間を賑やかせているヴァリアブル世代と呼ばれる熊埜御堂選手と、その中心にいたと評される高坂選手の一騎打ち! いやー上尾さん、残るべくして残った二人ということになりますねぇ』


『私個人としては高坂選手がここまで圧倒的な結果を残してくれていることに驚きを隠せませんね。怪我でサッカーから離れていたのだとしたら、今後は当時のようにヴァリアブル世代として日本サッカーの将来を担っていける立場になれるかもしれないということですから。非常に楽しみです』


『私も今後は彼のことを追ってみようと思います!』


 いや、今後はどうなるか分からないんで俺は。


『さて、finalステージはこれまでとは難易度がグンと上がっています。直径50cmの的を、左右に動いて妨害する壁に空いた穴を通しながら狙わなければならないというものです。これを交互に挑戦し、先に的を抜いた者の勝ちとなります』


『…………この二人でも流石に無理なんじゃないですか?』


『スタッフさん達はここまでしたのに、熊埜御堂選手や高坂選手ならすぐに決めてしまいそうだと震えてましたよ』


『ここまで大掛かりなセットを作ったのに、1発で決められでもしたら泣くでしょうね』


 ドッと会場で笑い声が上がった。


『…………さあ、どうやら熊埜御堂選手の準備は万端のようです。それでは挑戦していただきましょう。finalステージです!!』

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