真剣勝負①
梨音やもっちーさん達のいる方に向かって親指を立て、意気揚々と待機エリアに戻ったところで既に挑戦を終えた人達から囲まれた。
「お前、高坂修斗だったのかよ!」
「怪我したって聞いてたけど治ったのか!?」
「全パーフェクトとか相変わらず凄ぇな」
質問攻めだ。
俺が見知っているのは3人だけで、他は全く知らない人達ばかりだというのに、自分のことながら改めて多くの人に知られていたことを実感する。
一通り簡単な質問に答えたところで次の人の準備が始まったことから、騒ぎ立てることはなくなった。
みんなが離れたところで熊埜御堂と目が合った。
俺はそのまま熊埜御堂の隣に座った。
「初めまして、だな」
「お前が高坂か。噂には聞いている」
熊埜御堂が世間的にも有名になったのは、ちょうど俺が怪我した頃と同じになるので入れ替わりのような形になる。
つまり、お互いに話は聞いていても実際のプレーを見たことない同士だったのだ。
そして今日、少なくともお互いの蹴り方を見て思うところがあるはずだ。
「熊埜御堂の蹴り方はやっぱり独学なのか? それとも誰かを参考に?」
「…………参考にした選手は何人かいる。だが、途中から自分なりの形に変えた」
「やっぱそうか。とてつもない完成度だよな」
「お前は何故こんなところにいるんだ? ユースでは何をしてる」
何故こんなところにいるかは、そっくりそのままお返ししたいところだけどな。
「俺はユースに入ってない。怪我のせいでユースに上がれなかったんだ」
「そうか」
………………会話終わっちまった。
せっかく話したくない怪我話を展開したというのに。
あんまり話したりするのは好きじゃないのか?
賢治と同じ職人気質なのかな。
「熊埜御堂こそ、なんでこれに出てるんだ? ユースの練習とかはいいのか?」
「金のためだ」
予想外にシンプルな答えが返ってきた。
そういえばもっちーさんの目的のゲームとは別に賞金3万円も出るんだったか。
「金?」
「当然だ。俺には金がどうしてもいる。ユースには特別に許可を貰った。こんな簡単なゲームで3万円も貰えるなら、出ない理由がない」
簡単なゲームときたか。
確かに1stステージはシンプルなキックターゲットだったし、俺自身もミスはしていない。
それでもここまで自信のある言葉を、思ったとしても口には出さない。
それにしても金のためにわざわざ許可まで貰って出るなんて、プロ志向の考え方をしてるのか?
「なんでそんなに金が必要なんだよ」
「お前にそこまで話す義理はない」
まぁ…………それはそうだけども。
ちょっとしたコミュニケーションの一種じゃないか。
「ま、俺も負けるつもりはないからな。この後もよろしく頼むぜ」
「はっ、お前ごときが俺を超えるのか?」
おっと……?
これまた予想外な回答だ。
お前ごときだって? 随分と挑発的な発言じゃないか。
ここまで明確に下に見られたことは久しぶりな気がする。
弥守や優夜に言われた時とはまた違う、相手がどうのこうのというよりも、自分の実力に確実な自信があるがゆえの発言なのだろう。
腹立つというよりも、素直に面白いと思った。
「超えてみせるさ。ことサッカーに関して俺は、誰にも負けたくない」
「フリーキックは俺の全てだ。結果も金も、誰にも譲らない」
意図せず宣戦布告みたいになってしまったが、フリーキックの
これを復帰へと足掛かりの一つとさせてもらう。
その後、全員の挑戦が終わり結果発表となった。
当然、俺や熊埜御堂は突破し、
俺を含めた突破者7名はそのままの流れで反対側のコートへと移動させられ、続いての2ndステージの説明を受けることとなった。
的についてはカーテンが掛けられてまだ見えない。
「それでは2ndステージの説明をさせていただきます。まずキック位置ですが、先ほどの位置からは少し離れたところになります」
そう言って指定した場所はペナルティエリアのちょうど真上。
つまり、5mほど後ろに下がったことになる。
「的から約16.5mの位置になります。そして問題の的ですが───」
そこでカーテンが下ろされ、現れた的は1番〜7番の番号が振られた大小様々な形をしていた。
円形や長方形、台形に三角形など先ほどのノーマルなパネルとは大きく異なっていた。
「こちらの的になります。こちらを持ち球12球の間に狙っていただく形になります」
距離が遠くなり、なおかつ大きさや形が変わった的。先ほどまでとは打って変わって難易度が上がっている。
それにこの距離はフリーキックの位置により近い。
つまり、熊埜御堂の有利ポジということだ。
だからと言って壁やキーパーがいないことに変わりはない。
俺がミスをしなければ負けはない。
集中だ。
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