蹴球標的④
会場内には驚きの歓声が上がった。
これまでの挑戦者の中で一球も外さずに全ての的を打ち抜いた人はいなかった。それどころか、事前に狙った番号を全て当てたのだ。盛り上がるのも当然だろう。
しかし、全ての的を完璧に当てたというのに、戻ってくる熊埜御堂の表情は変わらず硬いままで、喜んでいる様子はあまりなかった。
『熊埜御堂選手! 宣言通りに全てのパネルを打ちぬいたぁ! 成績はもちろん単独トップの1位となるため、ここで2ndステージ進出を確定させました!』
『終始ブレることがありませんでしたね。大舞台に慣れていると言いますか、安心して見ていることができました』
戻ってきた熊埜御堂はそのままドカッと座った。
険しい表情に、誰も話しかける人はいなかった。
その後、11番目、12番目の人達の挑戦が終わり、俺の番が回ってきた。
足の調子はここ最近悪くない。
ある程度踏み込んだり、ボールを蹴っても痛みは襲ってこない。
それにロングキックを蹴るというわけじゃないんだ。ペナルティキックからの距離なら問題はない。
「13番、高坂さん準備をお願いします」
「はい」
案内に従い、待機エリアから移動する。
「修斗頑張れー!」
遠くの方から梨音の応援する声が聞こえてきた。
こういうのはシンプルに嬉しいもんだな。
『続いては高坂修斗選手です! 手元の資料では現在高校1年生で中学時代に……東京
実況の人の声がペナルティエリアの方まで来ても少し聞こえてきていた。
人によっては少し集中力削がれそうだな。
俺の名前が出たところで、待機エリアの方でもざわつきがあった。
熊埜御堂と同じで、顔は知られてなくても名前は知られてたパターンかな。
『高坂修斗…………私の記憶が正しければ恐らく、彼はヴァリアブルの中でも中心人物として有名だった選手なのでは?』
『そうなんですか? すいません、私もちょっとジュニアユースまでは把握しておらず……』
『ここ3年ほど、ヴァリアブルのジュニアユースが全てのタイトルを総なめしていると話題に上がっていましたからね。その頃に天才プレーヤーとして高坂選手の名前がよく上がっていました』
『しかしユースでは名前を全く聞きませんが…………』
『去年あたりに大きな怪我をしたという話です。今回出場してくれたのは怪我が治ったからだとしたら、良い成績を残してくれると期待できると思いますよ』
『なるほど! それでは高坂選手の挑戦を見ていきましょう! 13番、高坂選手の挑戦です!』
なんかハードル上がったな。
とはいえ、キックターゲットと言っても大きく捉えればサッカーの一種だ。
ことサッカーに関して俺は誰にも負けたくないと思ってる。
たとえフリーキックの練度が熊埜御堂の方が上だとしても、これは止まっているボールをペナルティエリアの位置から狙うだけ。
壁がいるわけでも、キーパーがいるわけでもない。
外す時は、俺自身がミスをした時だけだ。
「9番」
俺は一番下にある番号を指定した。
『高坂選手、まずは下から選択しました!』
何も難しいことはない。
俺は右足で軽くチップキックのようにしてボールを蹴った。
バックスピンのかかったボールはそのまま9番の的を射抜いた。
『宣言通り9番をヒット!』
『柔らかいボールタッチでしたね』
続いて8番を指定した。
今度は少し巻くようにして右端にある8番を抜いた。
『連続で指定した番号を抜いていくぅ!』
そのまま7番、6番、5番と抜いたところで解説の人も俺の狙いに気が付いて言及した。
『上尾さん、これはもしかして……』
『そうですね、熊埜御堂選手とは逆の順番で狙っていっています。対抗意識でしょうね、高坂選手も負けず嫌いなようです』
ヴァリアブルの頃からの理念は完全な勝利。
結果は当然のこととして、内容も満足のいくものでなければならない。
熊埜御堂がどうなのかは分からないが、紗凪や山田と一緒にやったフットサル以来の勝負事だ。中学の頃のギラついた闘争心がサビないように、今回のイベントは本気で挑ませてもらう。
「4番」
続けて下がっていくように番号を指定し、指定通りに的を打ち抜いていく。
『最後の一枚になりました!! ここまでノーミスかつ予告通りのパーフェクト!! 熊埜御堂選手に並ぶことが出来るのでしょうか!!』
最初は遊び気分で来ただけだったのに、まさか真剣に張り合える人がいるとは思わなかった。
「面白くなってきた」
俺は最後の一枚もミスすることなく打ち抜いてみせ、熊埜御堂と同じく1位で1stステージ通過が決定した。
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