海水浴場⑤

【高坂修斗目線】



 もっちーさん達のところに戻ってからしばらくすると、新之助と八幡が焼きそばとたこ焼きを持って帰ってきた。

 ところが八幡の様子がおかしい。

 少し俯き加減というか、新之助と距離があるというか……。


「おっすーお待たせ諸君」


「お帰りなさい。意外と時間かかったね」


「それが聞いてくれよお前ら! さっきとんでもねぇ奴らがいてよぉ」


 新之助の話では、三人組の男に一人でたこ焼きを買っていた八幡が絡まれていたという。

 その時に八幡は心許ないことを言われたのだとか。

 道理で八幡が落ち込んでいるわけだ。


「八幡のことをブスだって言いやがったんだぜ? 頭に来るよな!」


「なにそれ酷い!」


 桜川が憤慨したように言った。

 梨音と前橋もそれに同調した。


「そいつら見る目無さすぎ。おい新之助、ちゃんとそいつら泣かしたんだろうな」


「おうよ。とことんやってやったぜ」


 俺は新之助とお互いに親指を立てた。


「でも似たようなことは僕達にもあったよね」


「ニノも絡まれたのか?」


「いや僕がっていうか、若元さん達も三人組の男に絡まれてて……」


「おいおい治安悪いなここは。ロクな奴いねぇじゃんか」


「それで修斗が寝っ転がって大騒ぎしたんだよね」


「おい説明省きすぎだろ」


 それじゃあまるで俺がダダこねてるみたいな情景が浮かぶじゃねーか。

 もっとこうあるだろ。

 俺の天才的閃きのおかげで特に大きく揉めることなく済んだとか……神がかり的な演技力とか。


「冬華大丈夫? そんな人達の言うことなんて無視していいからね!」


「え、ええ…………」


 相変わらず八幡のテンションは低いままだった。

 海は普段から遊んでる奴らがナンパするのに絶好の場所だってのか。良いことばかりじゃないってことを知れたのは勉強になったぜ。


「ちょっと修斗、冬華が落ち込んでるままなんだけどどうにかしてよ」


 梨音に肩を小突かれて耳打ちされた。

 小声で囁かれて少しこそばゆい。


「どうにかって言われてもなぁ」


 八幡は顔を俯かせながらもチラチラと新之助を見ていた。

 俺のシミュレーション対応の時の前橋みたいに、新之助の対応も八幡にとってショッキングな対応だったのか?

 いや、単純に暴言を吐かれたことに対する落ち込みなのか…………にしても新之助の顔をよく見ているような…………。


「なぁ梨音、もしいきなりお前に暴言吐いた奴を友達が代わりにぶちのめしたとしたらどうする?」


「ぶちの……! 半分は引くと思う」


「もう半分は?」


「私なら…………その人のことを見直すかな。自分じゃどうにもできないことを代わりにやってくれる人がいるならね。でもさっきも言ったように、暴力沙汰はダメだからね!」


「たとえば、たとえばの話だよ」


 新之助の解決方法は分からないけど、少なくとも八幡が改めて新之助のことを見直す方法だったんじゃないか?

 だとすればあの八幡の態度はたぶん…………。


「大丈夫じゃないか、放っておいて」


「ええー? なんでそう言い切れるのよ」


「なんつーか…………雰囲気?」


「曖昧な回答ねえ」


 俺は新之助ほど人の心情の機微に聡くない。

 だけど今の八幡からは落ち込んでるというよりも何かを気にしているように感じる。

 あくまで俺の個人的な意見だが……。


「それよりもせっかく飯買ってきたんだ。みんなで食べようぜ!」


「それもそうだね! 八幡さんたこ焼きちょーだい!」


「あ、はい、どうぞ」


 新之助と八幡達が買ってきた焼きそばとたこ焼きを食べてしばらく休憩した後、再び海に入って遊んだ俺達は高校1年目の夏休みに貴重な思い出を作った。

 きっと来年もこのメンバー達とどこかに遊びに行くのかもしれない。

 例えば山にキャンプなんていうのもアリだ。

 俺が今まで経験できなかったことを、みんなと取り戻していくのも悪くないだろう。



 だけど、俺にとってこれがみんなと出掛けた高校最後の夏休みとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る