神上涼介①
【神上涼介目線】
いつもと同じ時間、いつもと同じランニング道で、いつもと違うことが起きた。
瑞都高校で会った時以来に修斗と再会したのだ。
話を聞けばどうやら近くのフットサルコートでフットサルに参加していたらしく、それどころかサッカー選手として復帰するというではないか。
俺達、東京
そんなアイツが戻って来るというのだ。期待せずにはいられない。
だが、そんな中で、俺よりも喜んでいそうな人物が隣にいた。
「修斗が…………戻ってくる…………苦労した甲斐が…………フヒヒ……」
「俺より嬉しそうだな鷺宮」
修斗がサッカーを始めるという話を聞いてから、鷺宮は時折口角を上げていた。
「は? 別に喜んでませんけど」
「いやいやいや、無理あるだろ。よっぽど嬉しそうだぞお前」
「はぁ……涼介はまだ分かっていないみたいね。修斗にお熱だったあの頃の私はもういないの。今は貴方達をどうやってプロの世界まで押し上げるかで忙しいのよ」
「だから最近、俺の自主練に付き合ってくれているのか?」
「そんなところね」
鷺宮の真意は俺には分からない。
元々転校してきた時に鷺宮は修斗が復帰する可能性のあることを匂わせる発言をしていた。
いつかこんな日がくるであろうことを、鷺宮は話していた。
にしても、まさか修斗がヴァリアブル以外のところに行くとは想像だにしていなかった。
ともすれば、修斗は一体どこのチームに行くというのだろうか。
クラブチームで有力なところで言えば、
もしもその2チームのどちらかに修斗が入れば、俺達の三連覇は難しくなるな。
まさか……高校の部活には入らないだろう。
鹿島オルディーズにいた狩野隼人がいたということで前に戦ったが、チームとしては所詮高校レベルだ。
それならば青森光聖学園に行った方がよっぽど意味がある。
いずれにせよ、修斗を獲得したチームは間違いなく俺達の障壁となるだろう。
より一層練習に身が入るな。
「おう、二人揃って来たんか。色恋にうつつ抜かしとんちゃうぞ」
ヴァリアブルのグラウンドへ戻って来るやいなや、シュート練をしていた優夜が茶化すように言ってきた。
東京
「馬鹿言わないで。私は貴方達を将来的にクシャスラへプロデュースするために来ているの。邪な気持ちでこのクラブに在籍しているわけではないわ」
「そうだぞ優夜。邪な気持ちを持ってサッカーに臨むのは光だけで充分だろ」
「別に邪な気持ちでやってないんですけど〜。心外だなぁ」
ヴァリアブル1足の速い男、荒井光が身体を伸ばしながら歩いてきた。
奴が熱心に練習に取り組んでからというもの、その実力は桁違いに伸び始めている。
だが、それと同時に女遊びも派手になった。
足だけでなく手も速い男なのだ。
「それにこうやって練習を真面目に出てるだけ偉くない?」
「よう言うわ。一度代表の選考から外されてから誰に言われんでも練習量増やした真面目ちゃんなくせにな」
「別にそれだけが理由じゃないんですけど〜?」
「まぁ足の速さだけじゃ限界は来るだろ。しかも代わりに呼ばれたのが流星だったからな。修斗がいなくなってからは一段と目立つようになった」
現在のヴァリアブルのトップ下に定着している
中学時代は俺達と同じく『高坂世代』と呼ばれていたが、同じポジションの比較対象が強大過ぎたことによって、チームメイト以外の人達からは過小評価されていた。
くしくも、修斗がヴァリアブルからいなくなったことにより、その実力は多くの人の目に止まることとなり、最強の控えに甘んじていたところがついに日の目を浴びることとなった。
現在は日本代表にも選出されている。
「流星が呼ばれたこと自体は別にいいんだよ。その
「確かに光はクロスが抜群に上手くなったよな」
「おう、それだけは認めたるさかい、俺のアシストだけはどんどんせぇよ」
「うわ、クロスあげたくね〜」
気づけば賢治もグラウンドにやって来ていた。
相変わらず試合中以外ではほとんど話さない。
優夜に似た図体で無愛想な表情なので、初対面の相手は大体萎縮してしまうのだが、心優しい人物であることはみんな知っている。
「そういえば台徳丸に前回の試合でダメだったところをフィードバックするのを忘れていたわ」
鷺宮が賢治の元へ向かっていった。
鷺宮の人の能力を見抜く目は本物だ。
トレーニング内容や戦術面の知識についてはからっきしだが、育成という面においては彼女ほどの適任はいない。
どこがダメだったのか、どこを伸ばせば自身の特性を活かせるのか、それを教えてくれるだけでも後はコーチにでも練習方法を確認して引き伸ばせばいい。
俺達1年は今年、9人がユースへと昇格している。
その内、Aチームに昇格しているのは俺を含めて、城ヶ崎優夜、荒井光、台徳丸賢治、狭間流星の5人。
その他の友ノ瀬龍二、
そしてもう一人、スカウト組としてユースからヴァリアブルに所属することとなり、俺達と同じAチームに昇格している男、
修斗がいずれかのチームに所属して相対する頃には、俺達の代がスタメンの多くを占めているはずだ。
俺の目から見ても優秀な人材しかいない俺達の代を、修斗がどう打ち破るのか今からそれが楽しみで仕方ない。
故に、修斗に対する憧れは今この瞬間に全て捨てる。
「俺が一番のプレーヤーだ。修斗にその座は譲らない」
その日の練習中、俺は全ての1対1で賢治に勝利した。
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