説明責任⑦

「ちなみにどんな漫画描いてたんだよ。ちょっと見してみ」


「あっ、だ、だめだってば!」


 梨音の制止を無視し、机の上にある紙を一枚めくって見てみた。

 そこにはキャラクターがシュートを放ち、ゴールを決めているシーンが描かれている。

 つまり、サッカー漫画だった。

 しかもシュートを決めているキャラはどことなく俺に似ている。


「梨音…………これって……」


「……だって……昔から修斗のプレーをよく見てたし…………動きをデッサンするのに一番参考にしてたから…………」


「お……おお……そっか…………」


 お互い気まずい沈黙が流れた。

 漫画のキャラとして描かれていることを知った俺と、それを本人に知られた梨音。

 恐らく今考えていることは同じだろう。


(死にてぇ……!)


 恥ずかしさで憤死するぞ。

 なんでこんなことになったんだ。

 梨音の部屋に来るたびに死にかけてる気がする。


「えーっとだな……」


「べ、別に特別な意味はないから! 単にスポーツ漫画は人の動きを勉強するのに適してるってだけだしたまたま修斗に似てるのもサッカー上手い人を参考にしたらたまたま修斗が描きやすかっただけだし! だから勘違いしないでよねっ! 全部たまたまなんだから!」


「おお…………うん」


 すーごい早口。こんな早口で話すところ見たことねぇ。

 アナウンサー顔負けだよ。


「ま、まぁ俺としてもモデルにしてもらうのに悪い気はしない。応援してるぜ、梨音」


「そんな取ってつけたような気遣いしなくても……。ところで修斗は何しに来たの?」


「ん? 何しにって…………何しに来たんだっけ」


「ぷっ、なにそれ」


 あははと梨音が笑った。

 本当は何をしに来たかハッキリと覚えている。

 弥守のことに関して勘違いしているようだったから、その誤解を解きにきたんだ。

 だけど梨音の砕けた表情を見ていると、わざわざ弥守の話を引き出して話す必要はないかもしれないと思った。

 梨音の機嫌が良くなったなら、俺はそれで万々歳だ。


 だけどこのまま部屋に戻ったら、俺が単に梨音の部屋に突撃したみたいになっちまうからな、何かしらの話をした方がいいわけなんだが…………そうだ。


「そういえば神奈月先輩から生徒会新聞を梨音と二人で作るように頼まれたんだよ。何か聞いてるか?」


「うん、そういえば今日メッセージ飛んできたよ。詳しいことは聞いてないけど……」


 既に梨音にも連絡済みだったか。その辺りはやっぱ抜かりないな。


「資料なんかは明日くれるらしい。それよりも新聞の中には絵を描いたりしてもいいって聞いたんだ。梨音、さっそく得意分野が活かせる時が来たな」


「……それはつまり、私がその絵を描けってこと?」


「それ以外ないだろ。これで絵を頼む人を探す手間が省けたな。いやー良かった良かった」


てい良く使われてる気がする……」


「深く考えるな。自分の特技を活かす機会なんて本来中々あることじゃないんだ。俺なんて体育の時間の時ぐらいしか活かせないしな」


「それは知らないけど…………」


 とはいえ体育の時間のサッカーで目立ったことなんてしたことないけどな。

 素人だらけの中でドリブルして抜いても何も面白くないし、パスしかしなかったぜ。


「というわけで、明日の生徒会ではその辺りについて話を合わせていく予定だから、頼むぜ」


「分かった。というか、わざわざそれを言いに来たの?」


「……………………せやで」


「なにその。なにそのエセ関西弁」


「じゃっ、おやすみ!」


「あ、うん。おやすみ……」


 俺は逃げるようにして梨音の部屋から出て行った。

 扉を閉める際、梨音が「何か隠してる気がする……」と言っていたが、まぁ大丈夫だろう。


 俺は部屋に戻ってふと携帯を見ると、桜川からメッセージが届いていた。

 また海外サッカーの秀逸プレイの動画リンクでも貼られてるのかと思い、軽い気持ちでメッセージを確認して、俺は画面を見て固まった。





『明日、東京ヴァリアブルユースのBチームと練習試合することになったよ!!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る