登校初日①

 ピピピ、ピピピ、ピピ───カチッ。


 耳に残る電子音で目が覚めた。

 見慣れない風景に一瞬首を傾げるも、すぐにここが梨音の家であったことを思い出した。


「そうか……そういや居候してるんだった」


 目を擦りながら立ち上がり、部屋のカーテンを開けた。

 気持ちの良い朝日が差し込んでくる。

 門出に相応しい天気だ。

 午前7時15分。

 45分には出れば間に合うな。


 仕立てられた制服に着替え、居間へと降りていく。

 居間には既に梨音がいた。

 俺と同じく瑞都高校の制服に着替えている。

 俺よりもよっぽど様になっているな。

 繁オジさんと梨音のお母さんは店の下準備をしているみたいだ。


「おっす。早いな梨音」


「おはよ。朝ごはんは私が作ったから、修斗も食べて」


「ありがてぇ」


 俺はテーブルを挟んで梨音の向かいの席に着いた。

 朝食は卵焼きと納豆ご飯に味噌汁とシンプルな組み合わせ。

 ザ、日本食みたいな。


「毎朝作ってんの? 前は作り置きしてもらってたじゃん」


「お母さん達が忙しいからね。自分で作れるようになった方がこの先便利でしょ。最近はずっと作ってるよ」


「ふーん。あ、卵焼きうま」


「そうでしょそうでしょ」


 少し砂糖多めの甘いタイプ。

 母さんが作るものとはまた違うな。


「45分ぐらいでいいよな、出るの」


「うん……ってそっか。一緒に行くのか」


「そのつもりだったけど。え、なんか弊害ある?」


「…………いや、知り合いに見られたらどうしようかなーって」


「別に今さらだろ。俺達が幼馴染だなんて知ってる奴は知ってるし」


「……それもそうね」


 でも、アレだな。

 流石に一緒に住んでるってのはまずいか。

 コイツにだってそのうち好きな奴の一人や二人できるだろうし、容姿だって整ってる方なんだから高校で告られることだってあるだろう。


 なのに俺が一緒に住んでるって知られたら、梨音の交友関係が円滑に進まなくなりそうだもんな。


「…………ま、今日ぐらいは平気だろ」


「何が?」


「んにゃ、こっちの話だ」


 俺達はご飯を食べ終え、各々支度を済ませたのちに裏口に向かった。

 学校指定の学バンの中には大したものは入っていない。

 だけど帰ってくる頃には教科書だの何だので、凶器かよというほど重たくなるに違いない。


「よし、行くか」


「うん」


 俺と梨音は瑞都高校へと向かった。


 瑞都高校は昨日行った駅から徒歩5分くらいの所にあり、梨音の家からだと15分ぐらいになる。

 自転車通学ももちろん可能なのだが、行きは上り坂が多く、朝から自転車を押すハメになるのはしんどいのでとりあえず徒歩にした。

 今後いつでも切り替えはできるので、その時には自転車を買おうと思っている。


「駅まで来ると制服着た奴は多いな」


「近くにもう一つ高校があるしね。あんな登山みたいなとこまで登れないけど」


「瑞都高校の方がまだ近くて助かったぜ」


 社会人が少ない反面、学生は多い。

 それに合わせてか、駅周りはチェーン店のファーストフード店やカフェが並び立ち、時間を潰すことのできる飲食店が多い。


「俺も一回はああいうもの食べてみたいな」


「食べたことないの?」


「サッカーやってた時は栄養バランス考えて食べてたから、あんまり添加物の多い物は食べないように意識してたんだ」


 ジャンクフード系はもちろんのこと、お菓子やケーキといった物もなるべく食べないようにしている。

 全ての基礎となる体作りのためならどんな我慢でもすることができた。


「そういえば意外とストイックだったよね」


「意外とは失礼な。どっからどう見てもプロ意識の塊みたいな男でしょ」


「じゃあ今度から朝ご飯も自分で作ってね」


「実は俺……朝食を作ると死ぬ病気なんだ」


「じゃあ死んで」


「ひどすぎるだろ!!」


 梨音の心許無い一言に落ち込んでいる間に、俺達は瑞都高校に着いた。

 門を越えて入ったところに大きめの掲示板が設置されており、人だかりが出来ていた。

 どうやら新入生のクラス分けが貼り付けられているようだ。


「全部で7組あるみたいよ」


「俺達は何組だろうな」


 一組から名簿を見ていく。

 しかし全く見当たらない。

 俺だけじゃなくて梨音の名前も見つからない。


「全然ないけど」


「…………あ、あった!」


「どこ?」


「……二人とも7組」


「マジかよ……」


 見ると確かに7組のクラスに〝高坂修斗こうさかしゅうと〟〝若元わかもと梨音りお〟と名前が載っていた。


 まさかの同じクラスかよ。

 同じ中学から複数人行ってるわけだし、誰かしらと被ってもおかしくはないと思ってたけど、それが梨音とは恐れ入ったぜ。


「他に同じ中学の人はいないね」


「じゃあリアルガチにただの偶然か」


「腐れ縁て凄い」


「腐らすな腐らすな。新鮮な縁であれ」


「じゃあとりあえずクラス、行く?」


「そうすっか」


 俺達は別れることなく、そのまま1年7組の教室へと向かった。

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