第38話 Cafe time(カフェタイム)
僕と山田が夕陽を鑑賞していた場所から、ショッピングモールまでは、歩いて5分程度だった。BEACH WALKへ到着した僕たちは、ショッピングモール内へ入るため、手荷物検査があった。2年前に来た時は、そんな手荷物検査などはなかったが、バリ島もセキュリティが厳しくなったということであろうか。なんだか世知がない印象を受けた。世界中、どこにでもテロが起きる可能性があるということだ。こののどかなバリ島ですら。
僕「山田君、そろそろBEACH WALKへ到着しますよ。左側に見えるネオンが鮮やかなあそこですよ。」
山田「このショッピングモールは、なんだかバリ島とは思えないにぎやかさですよね。」
僕「ここ数年でこの建物は建ったようでかなりの人気スポットみたいですよ。ブランド店も出店していますよ。」
山田「ブランドですか。海外でほしい物ってなさそうな感じがしますね。」
僕「そうなんだよね。多少、高くても日本で買った方が安心できるし、運ぶ手間の省けますからね。お土産には、丁度いいかもしれませんが。」
僕と山田はショッピングモールのセキュリティチェックを受け、入店した。早速、僕は通り沿いのオープンテラスのスターバックコーヒーへと山田をナビゲートし向かった。スターバックスコーヒーショップはクーラーの効いた店内とオープンテラス席がある。もちろん僕と山田はオープンテラス席へと腰を掛けた。
山田「いい席取れましたね。街の喧騒が伝わってくるのと、南国の夜の風がさわやかに俺たちを包んでくれますね。この夜風と解放感が何とも言えませんね。南国って感じで最高ですよ。」
僕「山田君、席はここでいいですか。」
山田「OKです。俺が、荷物番していますから、酒井さんから先に飲み物をオーダーしてきてください。待っています。」
僕「山田君。じゃ、荷物番よろしくお願いしますね。こういう時って、連れがいるといいよね。」
僕は山田が確保した席は、スターバックスコーヒーショップのエリアのオープンテラス席だった。通り沿いである。通りからは水路を挟んで少し高台にあるため、外部からは手が届かない位置にある。
僕は山田に荷物番を任せて、僕はオーダーのため店内へ向かった。店内へとボーイが扉を開けてくれ、僕を店内へナビゲートをした。
店員が、「Selamat Datang」とインドネシア語でいらっしゃいませと言った。スターバックコーヒーショップの店員は日本と同じ制服で僕を迎えた。
店員「いらっしゃいませ。」
僕「オーダー、お願いします。トロピカルティのラージと、チョコレートドーナッツをお願いします。」
店員「かしこまりました。ドリンクは青色のライトの下でお渡しまします。あちらでお待ちください。」
僕は、案内されたように青いランプの下でオーダーしたものを待った。すぐにドリンクが出てきて。僕は山田の待つ席へと戻った。
僕「山田君、お待たせしました。今度は、僕が荷物番をしているから、山田君もオーダーをどうぞ。」
山田「はい。了解です。」と言いながら、山田は店内へと入った。
僕は山田が戻ってくる間、夜のとばりがおりたジャラン・パンタイ・クタ通りの人の流れを眺めていた。
通りでは、観光客とその人たちを待っているバイクタクシーのドライバー、道を流しているタクシードライバー、馬車で観光客を誘っている馬使いなど、人の動きが慌ただしい。僕はその道端の喧騒の景色を見ながら、バリっぽいと一人感じていた。この雑多な感じに居心地の良さを僕は感じる。
山田「お待たせいたしました。ここのスタバの店員の人たちって愛想が良くて感じいいですね。」と山田がドリンクとフードをもって席へ戻ってきた。
僕「そうでしたか。それはよかったですね。なんだかこのバリ島の喧騒が、アジアっぽくていいなって眺めていたんだよね。」
山田「俺も酒井さんが注文している間、この路上風景をなんとなく眺めていて、落ち着くなって思っていたんですよ。なんでだろうって感じですね。このバリ島の時間の流れと空気感っていうのが、俺の感覚に合っちゃっているみたいです。」
僕「僕と山田君って、本当に感性が似ているよね。というかバリアンのヒーリング結果で証明はされていますけどね。」
僕は、席から改めて路上の景色を何気なく眺めていた。山田も眺めている。夜空には蝙蝠が舞っている。
山田「酒井さん。今日のクタビーチの夕日って、本当に最高でした。俺もこの日のことを一生忘れることはないと思います。それと酒井さんと一緒だってことですね。」
僕「そうですか。山田君が感動してくれてうれしいですよ。今回一緒にバリ島へ来れて本当に良かったですね。僕が初めてこのクタビーチで見た夕日のことは、今だに忘れていませんよ。それほど感動したってことでしょうね。」
山田「酒井さん、先ほど撮ったこの写真を見てくださいよ。良く撮れていますよね。夕日って、こんな感じで画像になるんですね。」と山田は僕に先ほどの夕日の画像を見せた。
その画像には、僕が夕日をバックに写っているものだった。が、よく見るとその画像の僕と重なるように誰かのシルエットがあった。山田は、そのシルエットには気が付いていないようだ。良く見るとマルチンのように思えた。そういえば、初めてクタビーチの夕日を見たときも、マルチンに誘われてきたと思い出した。
僕「そういえば、初めてこのクタビーチの夕日を見たときは、マルチンに誘われてきたんだよね。なんだか懐かしいよ。今は、山田君と一緒なんですよね。マルチンと一緒にこのビーチで夕陽を眺めていた時は、山田君とこうやってビーチで夕陽を眺めるなんて思ってもなかったですね。」
山田「そうですよね。そうなんですね。なんだかマルチンさんへ焼けちゃいますよ、俺。俺と知り合う前の酒井さんのこと、俺、まったく知らないんですよ。」
僕「そりゃそうでしょ。山田君は僕よりも10歳若いんだから。僕の方がいろんな経験を少しだけ多くしているって感じですよ。」
山田「そうなんですけどね。」と、山田は少々すねた感じだった。
そのすねた感じがなんだかかわいく思えた。僕は、先ほど撮ったクタビーチの夕陽動画を見た。夕陽が移り変わりいく様や、その周りでの話し声、人々の残像などを動画でみていると、なんだか切なくなってきた。
というのも先ほど撮影した時間というものは、絶対にその時に戻ることは僕たちにはできない。その一瞬一瞬は、本当に貴いものだからだ。あの瞬間に戻りたいと思ったとしても、絶対に戻れない。
だから、僕たちはその瞬間、瞬間を大切に、精いっぱい生き抜かなければならないと感じた。山田も動画を見ているようで、おそらく僕と同じようにその動画を感じ取っているのだと思った。
僕「山田君、今日のブサキ寺院とランプヤン寺院はいかがでした?」
山田「俺、バリヒンドゥー教の建物のすばらしさに感動ですよ。過去の人たちがこんな素晴らしい建築物を創って、今、まだその建築が、俺たちが見ることができるってなんて、本当に素晴らしいことなんだろうって感動しちゃいました。」
僕「明日は、山田君どうする?行きたい場所とかあれば優先するよ。」
山田「俺、ライステラスやバリ島の中央の山間部へ行ってみたいです。なんだかバリの人の昔ながらの生活風景が見えるようなんで。」
僕「そうですね。それじゃ、バリ植物園のあるブドゥグルという地区へ行ってみましょうかね。なかなかディープな感じですよ。後、ローカルな市場も覗いてみましょうかね。」
山田「やった。それでお願いします。」
山田が、子供のようにはしゃいだ。僕はその姿をみて何だか「キュン」としてきた。
僕たちが座った席の対面に日本人男性とインドネシア人女性がお茶をしていた。それともなく会話が聞こえてきた。その会話の内容は、次のようなアジアではよくある男女の交渉だった。つまり買春の商談会話だった。その男女は交渉が成立したようで、数分後には席を立って出ていった。その様子を見ていた山田の反応が面白かった。
山田「酒井さん、先ほどの俺たちの席の対面の男女の会話って聞こえてました?」
僕「少しね。」
山田「あれって売春の交渉かなんかの怪しい会話でしたよ。」
僕は気が付いていたが、山田には気が付いていなふりをした。
僕「そうだったんだ。っで、どんな会話をしていたんですか。」と僕は少し山田のうぶなところにいたずらしてみた。
山田「なんだか、インドネシア人女性が日本人男性へ、この後食事へ行って、おいしいものを食べた後、あなたの部屋でしましょって言っていましたよ。俺、びっくりですよ。」
と、いっている山田の耳が真っ赤になっていた。まだ若いからうぶだなと思い、少々その純粋さを、僕はうらやましく思った。
僕「そのような会話はアジアではよくあることだよ。観光地にはそういった性産業ってつきものだからね。」
山田「酒井さんもそういったことしたことあるんですか。」
あまりにも直球すぎる質問に、僕は少々たじろいだ。
僕「まさか。山田君、僕はそんなことしないよ。安心してください。」
山田「安心しました。でも、そういったことで生計を立てている人もこのアジアでは、まだまだ多いんでしょうね。」
僕「そうだね。女性が手っ取り早く現金収入を得るには、一番簡単だからね。ただ病気というリスクもつきものだけどね。そのリスクよりも今の生活が、やはり彼女たちには先決なんだろうね。」
山田「なんだか、世知がない感じですね。」
僕「それが現実ってやつですよ。でもね。山田君、自分の子供をお金のために売り飛ばしたりする親よりは、売春でもして家族を養っている母親の方が、僕は尊敬できるね。特に貧困国の東南アジアでは、いまだに親が子供の人身売買に加担しているって、よくある話なんだよね。逆に日本の女子高生みたいに生活のためではなく、彼女らの遊びのために体を売っている子を僕は軽蔑するね。」
と、山田は少々動揺しながら、僕の話に耳を傾けていた。
山田「酒井さんの言う通りですね。体を売ってでも、自分の子供を手放さず、育てる親だったら仕方ないかもって思っちゃいますね。」
僕「まだこのバリ島は、おとなしい方だけれど。インドネシアの首都ジャカルタでは、ブロックMというか言うエリアがあるみたいですよ。日本でいうところの新宿歌舞伎町のような歓楽街があるらしいよ。それでもまだインドネシアはイスラム教徒が多いから、売春などはおとなしい国だけれども、タイのバンコクなどはびっくりするぐらいだよ。」
山田「そうなんですね。国によって、随分、環境が違うんですね。ハノイで酒井さんが、フィリピンのセブの話をされていましたもんね。」
僕「山田君、その話をよく覚えていたね。」
山田「そりゃそうですよ。酒井さんのことは全部、忘れないんですよ、俺。」
と、山田は、少しだけはにかんだ表情を僕に見せた。なんだか僕は「ドキッ」とした。思わず告白でもされたかのような印象を僕は受けた。
僕「ところで山田君、今晩の夕食は何にしますか。食べたいものある?」
山田「そうですね。なんかイタリアンとかパスタ系が、俺、食べたいんですけど。」
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