第24話 Main subject(本題)
間もなくすると、マルチンの弟が待ち合せ場所へ訪れた。バイクでこの場所まで来たようだった。マルチンの弟の名前は、ヘルマワンと言っていた。
ヘルマワン「酒井さん、山田さん、大変お待たせいたしました。先ほどは僕の名前を伝えていなかったので改めてお伝えしますね。ヘルマワンといいます。」
僕「ご丁寧にありがとうございます。丁度食事も終わったところだったので、グッドタイミングですよ。ヘルマワンさんも何か召し上がりますか。」
ヘルマワン「ありがとうございます。それでは、コークでお願いします。」
ボーイも僕たちの席へ寄ってきた。
僕「ボーイさん。ヘルマワンさんへ コークをお願いします。山田君、何か飲む?」
山田「俺は、ビンタンビールでよろしくお願いします。」
ボーイ「コーク1つとビンタンビール2つですね。少々お待ちください。」
ヘルマワンを僕は席へ座るように促した。ヘルマワンは何かを手に持っていた。
僕「ヘルマワンさん、今日は忙しい中、わざわざこちらまでお越しいただき、ありがとうございます。また夕方はカフェへお邪魔して、おもてなしありがとうございました。あのカフェからの夕陽は素晴らしかったです。」
ヘルマワン「いえいえ、こちらこそ、カフェへお立ち寄りいただきありがとうございました。でも、本当に驚きました。あの出会いって、本当に偶然にしてはできすぎていますよね。兄が酒井さんを僕に合わせたような気がしました。」
僕「僕も本当にびっくりですよ。あんな出会い方ってあるんですね。マルチンが出合わせてくれたんでしょうね。何かの縁を感じますよ。」
山田「俺もあの出会いには、本当に驚きました。」
ボーイがオーダーしたドリンクを運んできてくれた。
ボーイ「ビンタンビールとコークをお持ちいたしました。」
僕「ボーイさんもよければ、同席はいかがですか。」
ボーイ「ありがとうございます。勤務中なので長い居はできませんが。少しなら大丈夫です。お客様も酒井さんたちだけですからね。次のお客様が来るまでは大丈夫です。」
僕「失礼いたしました。そうですよね。勤務中ですもんね。それじゃ、少しだけでもご一緒で。」
ボーイ「大丈夫ですよ。」
ヘルマワン「今日、実は、兄が大切にしていた写真をお持ちしました。よろしければ、酒井さん、ご覧いただけますか。」
僕「見せてもらえるんですか。うれしいですね。どんな写真なのか楽しみです。結構前の写真でしょうかね。」
ヘルマワンが、僕へその写真を手渡してくれた。僕は受け取り、思わず、懐かしさを感じた。
僕「この写真は、僕と妹がバリ島へ来た時にマルチンにガイドをしてもらったバードパークで撮った写真ですよ。まだ残っていたんですね。うれしいです。」
ヘルマワン「兄はこの写真は宝物だといっていました。」
僕「そうなんですね。宝物と言ってくれていたとは幸せですよ。」
山田「妹さんとの一緒の写真なんですね。いつ頃ですか。」
僕「そうだね。僕が27歳頃だったように思います。その頃は、アジアン雑貨の店を主に事業展開していたからね。その頃ですね。仕入れも兼ねてバリ島へ来た時ですよ。」
山田「そうなんですね。買い付けですか。まさにバイヤーですね。カッケーですよ、酒井さん。」
ヘルマワン「この時の写真は、素敵な思い出だといっていました。」
僕「そのころは、このバードパークができて間もなくで、マルチンが行ってみようといってくれて、三人でいったって感じだったと思います。そこで、鳥を腕にとまらせて写真が取れるということで、マルチンの腕にインコを乗せてとった写真ですよ。その時に面白いエピソードがありましてね。」
山田「何ですか。そのエピソードって?」
ヘルマワン「僕も聞きたいです。」
僕「三人で並んで写真を撮った時に、マルチンが右手にしていた指輪の石をインコが指輪から外し飲み込もうとしたんですよね。おそらくインコも光る石になにか惹かれたんでしょう。」
ヘルマワン「そうだったんですね。実はその指輪って、おそらく僕が兄へ買ってあげたものだったかもしれません。」
山田「その石はどうなったんですか。」
僕「マルチンがインコの口ばしの中に手を入れ、取り出しましたよ。三人そろって大笑いしたのを覚えています。」
僕はそのエピソードを話しながら、懐かしさをかみしめていた。ヘルマワンも懐かしそうに僕の話を聞いてくれた。その写真を撮った時は、まさかこんな形で二人の別れがあるとは思ってもみなかった。僕も20代ということもあって「死」というものが実感できなかったんだろう。
人の出会いは、出会った瞬間に「別れ」がカウントダウンされてしまう。その別れは、それぞれ形があるんだろうけども。なんだかそう考えると本当に切なく、胸に切なさがこみ上げてきた。これも運命とはわかっているが、それがまた運命の残酷さだと感じた。
ヘルマワンは、兄のマルチンの元気な姿を思い出し、切なくなっているんだろうと僕は感じた。
僕「すごく懐かしい写真を見せていただき、ありがとうございます。感謝します。あのころのことを思い出し、懐かしいという気持ちになりました。」
ヘルマワン「いえいえ、兄も酒井さんに懐かしく思っていただき、うれしく思っていることだと思います。いまごろ、兄も天国でほほ笑んでいるような感じがします。」
山田「酒井さん、マルチンさんの供養ができた感じでよかったですね。」
僕「山田君の言う通り、本当にそうですね。」
僕がそういったその瞬間、僕の対面に座っていたヘルマワン越しにマルチンの姿が見えた気がした。そのマルチンは僕に会釈をして、その姿が夜空の中へ上昇し徐々にその影は薄くなり消えていった。その話は、僕は山田とヘルマワンに話をしなかった。それを口に出してしまうと、僕の目から涙が零れ落ちそうになるからだ。
ヘルマワン「兄の供養ができたところで、酒井さんと山田さんは、明日はどうされるんですか。予定はおたてになっているんですか。」
山田「特に予定はないけど、ブサキ寺院とランプヤン寺院を探訪するぐらいですね。」
ヘルマワン「じゃ、もしよろしければ僕も同乗させていただけますか。」
僕「もちろん大丈夫ですけど、ヘルマワンさんは、明日は仕事が休みなんですか。」
ヘルマワン「そうなんです。明日は休みなんですよ。」
山田「酒井さん、ヘルマワンさんも一緒に寺院を探訪しましょうよ。」
僕「もちろんですよ。これもマルチンの導きがあるのかもしれませんね。」
ヘルマワン「ありがとうございます。ぜひ、明日よろしくお願いします。」
山田「なんだか運命の導きを感じますね。」
山田の言う通り何か運命のいたずらの導きを感じざるをえない。今回のマルチンの弟、ヘルマワンとの出合いである。いったいどういった意味があるのか今はわからないが、面白いと感じた僕であった。
ヘルマワン「それじゃ。僕はこの辺りで今晩は帰ります。コークはおいくらですか。」
僕「ヘルマワンさん、ここは僕のおごらせてください。わざわざこちらまでお越しいただいたので。」
ヘルマワン「ごちそうさまです。明日、よろしくお願いします。どちらで待ち合わせしますか。それとも酒井さんと山田君が滞在しているホテルまで伺いましょうか。」
僕「それじゃ。僕たちの滞在しているホテルのアグン・コテージまでお越しいただけますか。時間はAM9時ぐらいでいかがですか。」
ヘルマワン「了解です。ホテルの場所はわかりますのでご安心ください。時間もOKですから、大丈夫ですからご安心ください。明日もよろしくお願いします。」
僕「こちらこそ、よろしくお願いします。」
山田「ヘルマワンさん、明日、よろしくお願いします。」
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