俺VSメスガキ天使軍団!絶頂バトルで勝利しろ!~女神と燃えるエルフの森~(仮)
九泉
第1話:俺が童貞ってことは本当
たったいまの話、俺トラックに轢かれて死にかけてるんだけど。
視界いっぱいに光が満ちてきたと思ったら、この世のものとは思えないほど美しい女性が目の前に現れた。
その女性が言うには彼女は女神で、俺は手違いで死んでしまったらしい。
女神様がただの高校生である俺に向かって土下座する勢いで謝り倒してきたからかえって恐縮してしまったんだが、そんな俺の態度も謙虚・誠実で素晴らしいと絶賛。
お詫びとして扱いきれないほどのチート能力を付与した上でヨーロッパファンタジー風の世界に転生させてくれたんだ。
そこで俺は冒険者として活動を始めたんだが、平穏にはいかずいろんな事件が起こった。ギルドでベテランに絡まれていた冒険者の子を助けたり、人質として盗賊に囚われていた貴族の娘を救い出したり、奴隷として売られていた獣人の女の子を買い取って解放したり……。
なんやかんやあって彼女たちと行動を共にするようになったんだけど、近頃様子がおかしいんだ。
歩いているときにやたら引っ付いてきたり、朝起きたらいつのまにか布団に潜り込まれていたり。
嬉しさも感じなくはないけれど、童貞の俺にはいささか刺激が強すぎるんだよな……。
やれやれ。いったいぜんたいどうしちゃったんだろうなぁ~。
まあ、ここまでほぼぜんぶ嘘なんだけどね。
鈍感ハーレム主人公やってるのは嘘だし異世界転生も嘘。
女神に出会ったのも嘘。高校生だっていうのさえも嘘(ほんとはフリーターな)。
俺が童貞ってことは本当。
トラックに轢かれて死にそうなことも本当。
馬鹿なこと考えてたら走馬灯を見る暇もなく意識が遠くなってきた。
誰か助けてくれ、って思っても声すら出せない。周囲の音も聞こえない。もはや痛みさえ感じない。
ただただ眠い。いよいよもうだめかもわからんね。
だがそのとき、なにも聞こえなくなったはずの俺の耳に、女の声が響き渡ったんだ。
「――その願い、私が預かりましょう」
* * *
気づけば俺は、なにもない白い部屋に座り込んでいた。
壁も床も、天井も真っ白な部屋。
家具ひとつないせいで遠近感がおかしくなっているのか、狭くもだだっ広くも感じる。
そして視界の先にはひとりの女性が微笑みを浮かべて俺を見ていた。
白い布を身体に巻きつけている妙齢の女性。どこかの民族衣装みたいだ。そしてなぜか、頭に王冠を載せている。
……なるほど! これだけで合点がいった。
これ知ってる! 何度も見た……ことはないけど……何度もネットで読んだやつだ!
まさか走馬灯の代わりに見た馬鹿な妄想が現実になるなんて! 俺は思わず声を上げていた。
「ひゃっほぉう! 異世界転生だあ!」
「違いますけど」
「えっ」
「あの、私から話してもいいですか?」
「はい……すいません」
女性はわざとらしい咳払いをしてから口を開いた。
「コホン……お察しの通り、私は女神です。そしてここは『女神の間』です」
「な、なるほど」
「ですが貴方の想像とは違い、手違いで命を奪ったお詫びにゲームみたいな剣と魔法の世界にチートどっさりで転移してS級冒険者になってハーレム! ……なんてことは一切ありません。貴方が亡くなったのは手違いでもなんでもありませんので」
こやつ、サブカルチャーに詳しいタイプの女神だ、と思いながらも俺は声を上げる。
「そんな! じゃあ俺はなんで死んだんですか!?」
「……貴方の死因は、アニソンを聴きつつスマホでソシャゲのデイリークエストを消化しながら一切前を見ずにふらふらと歩いていたところ前方の赤信号に気づかないまま交差点へ進入、直進してきた大型トラックに跳ね飛ばされた挙句、運悪くやってきた別の車に轢かれ、そのまま数十メートル引き摺られたことです。まあ、完全に自業自得ですね」
「マジ……?」
「マジです。貴方がいきなり飛び出してきたせいで加害者になってしまった運転手さんがかわいそうです。ミンチになった貴方を見せてあげたいところですが、グロすぎてトラウマ必至なのでやめておきましょう」
「……」
歩きスマホ、ダメ、ゼッタイ。
……ん? それじゃどうして俺は女神(自称)と対面してるんだ? これから冥界? 的なところに移されるのか?
俺の疑問を汲み取ったのか、女神は口の端を持ち上げた。
「黄金律……とまではいきませんが、貴方は面白い運命の色をしています。貴方が生涯をかけて、世界へどんな影響を及ぼすのか、行く末を観察してみたい気持ちもあるのです」
「えっと、つまり……?」
「有り体に言えば『生き返り』のチャンスを差し上げましょう」
その言葉に俺は目を見開いた。マジで!? なんだか知らねえけどありがとう俺の
「た・だ・し、私とて無条件で生き返らせて上げるほど寛容ではありません。
なるほど、まあ神様の気まぐれでホイホイ生き返らせていたら命の重さなんてなくなっちまうもんな。生き返りを望む者に課題を課すのは妥当なところなのだろう。問題は、それがどんなものであるか、だ。
「……その条件とは?」
「メスガキ天使軍団と対決して勝利を収めることです」
「なんて?」
「メスガキ天使軍団と対決して、勝利を収めることです」
「メスガキ天使軍団」
「はい。メスガキ天使軍団です」
「オーケイ、ちょっと待ってください」
ここに来て怪我も痛みもすっかりなくなっていたのに、また頭が痛くなってきた。
「順番に進めていきましょうか。まずメスガキ天使とは?」
「メスのガキの天使のことです」
「なるほどー」
答えになってないんだよなあ。
女神はといえば、なんでそんなわかりきったことを聞くんですか? みたいな顔できょとんとしてるし。
天使ってのはたぶん部下的なポジションだよね? そいつらをメスのガキ呼ばわり? いいの? ……うーん、いいや。いちいち掘り下げていたらキリがなさそうだし、取りあえず次へ行こう。
「では、対決して勝利とは? 殴り合いでもするんですか? それとも異能バトルとか?」
俺の質問を聞いた女神は目を点にしたあと、声を上げて笑い出した。
「プッ、うふふふふふ! そんなことしませんよ! ただの人間の貴方が、天使とガチバトルして勝てるわけないじゃないですか!」
「で、ですよねー!」
腹立つなこいつ……! こめかみをヒクつかせながらもなんとか笑顔を浮かべたまま俺は尋ねた。
「じ、じゃあどうやって勝敗を決めるんですか?」
「そんなの〝先に絶頂したほうが負け!〟ですよ!」
「うん……?」
「いやですねえ、生き返りの条件は『絶頂バトル』って昔から決まってるじゃないですかあ」
そっかー決まってたんだ。知らなかったなあ。
え? ほんとに俺、これからそのメスガキなんちゃらと、絶頂バトルとかいうのを繰り広げるの? マジ?
いやいや、曲がりなりにも女神様が決めた方法だ。つい企画モノのAVみたいな内容を想像してしまっていたが、文字通りの内容じゃあないんだろう、きっと。こう、(よくわからんけど)エロースを超えた魂こそ蘇りに相応しいみたいな、
「いいえ? 文字通りの意味ですよ? 企画モノのAVみたいな内容です」
自分で言っちゃったよ。
「……えっと、どうして、そんなことに?」
「私の趣味です」
「趣味か~」
趣味ならしょうがないかー。
「私が選びぬいた四名……いえ、『四天使』に絶頂バトルで勝利すれば、貴方は生き返れる。実にシンプルです」
(その勝利の方法が問題なんですよねえ……あと四天使って呼び名、絶対いま考えただろ)
「まあまあ、そんなに気負わずとも大丈夫ですよ。何度でもやり直していいので、いつかは突破できます」
「おっ、マジですか!」
「それから連続で勝ち抜く必要もありません。一度勝利するごとに、この『女神の間』でセーブできます」
いいねいいね、ここにきて重要な情報が出たぞ。
何度でもリトライできるなら、いわゆる「死にゲー」「覚えゲー」戦法が通じるかもしれない。いや勝負の方法が特殊すぎてどうやって覚えゲーするんだよって問題もあるけども。そもそもセーブってなんだよ。
「ただ、ノーリスクで何回も挑戦できるのはちょっとズルいですよね」
「えぇ……」
自分から言いだしたことなのに? しかし女神は俺にずい、と顔を近づけプレッシャーをかけてきた。この女、なんかいい匂いがする。
「ズルいですよねえ?」
「まあ……うん。そう……かもしれません、ね」
「そこで! 貴方が敗北するたびに、エルフの里を燃やすことにします!」
「なんで!?」
そんなジャジャーン! みたいに発表する内容じゃないよ!?
っていうかあるの!? いるの!? エルフ!?
「いますよ? 異世界に。私が造りましたから」
エッヘン、と大きな胸を張るクレイジー女神様。
「いますよ? じゃなくてですね! なんで!? エルフさん関係なくない!?」
「えー? ぜんぜん関係ないエルフたちが理不尽に巻き込まれるの、面白くないですか?」
「少なくとも俺はまったく面白くないですね!」
「私は面白いから大丈夫ですね!」
だめだこのキ○ガイ、話が通じねえ……。
「もぉ、そんなにエルフの里を燃やされたくないなら、貴方が負けなきゃいいんですよ、負けなきゃ」
「いやそれはそうだけど!」
「まだなにか?」
「そもそも燃やさなきゃいいでしょう!?」
「神の言うことに文句は受け付けませーん。っていうか前座が長すぎてダレてきましたね。そろそろ本番イッてみましょ~。それじゃ、頑張ってくださいね~」
「え」
女神の言葉とともに突然床が消失した。
「ちょ!? まだ心の準備がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そんな叫びも虚しく、俺は為す術もなく底の見えない奈落へと落ちていったのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます