雰囲気だけは良い二人

春嵐

第1話

「そこに置いとけ」


「うす」


 ようやく届いた。日本製の、新しい賭場台。


「いい出来じゃねえか」


「そすね。木目の感じが落ち着いてる」


 街の、賭場を仕切っている。

 裏の顔役というやつだった。別に、なりたくてなったわけじゃない。学校に通っていなかったので、他にあんまり将来のルートがなかっただけ。特に、後悔もしてない。


「賭場にすぐ配備しますか?」


「ううん。ちょっと待つか。今は今で調度品いい感じだし」


「うす。事務所隣の倉庫に置いときますね」


「たのむよ」


 部下。賭場台を持って事務所を出ていく。


「ふう」


 巻灯まきなみちょう

 この町は、おかみから見放されている。自治体の支援金も受けられないし、そもそも役所の類いがほとんど機能していない。総務省で改革をやろうとして失敗した役人が、飛ばされる町だった。


 だから、賭場もあるし、未認可の薬品も出回ったりする。


「置いてきやした」


「ありがと」


 事務所。

 町の裏側といっても、賭場と薬の制御が基本的な仕事だった。


「ちょっと出てもいいすか?」


「どした?」


「南地区の在形ありかたさんなんすけど。最近賭場来てなくて。心配なんすよね。電話も出ないし」


 こうやって、賭場に来ない老人を気遣うようなこともする。


「俺が見てこようかな」


「顔役が?」


「警察沙汰になるかもしれんし」


「そすか。じゃあ、俺は賭場掃除してきます」


「おう。頼むよ」


 さて。


 今日も行くか。

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