森の異常
第99話:変わり果てた森の奥
デンが行方不明になった森に足を踏み入れた俺たちは周囲に警戒しながら進んでいる。
しかし魔獣の気配はどこにもなく、さらにいえば獣の気配すら全くない。
そのはずなのだが、森の奥からは異常なまでに強烈な気配が漂ってきている事もあり、これが魔獣も獣もいない原因なのだろうと俺は推測していた。
「ピッキャキャー! ピッキャキャー!」
「うふふ。スノウはご機嫌ですね」
「緊張感がないともいえるな」
「ガジルさん、それはスノウに対して失礼ですよ!」
「……お前ら全員、緊張感がないんじゃないのか?」
スノウの雰囲気に飲まれているのか、エリカたちは僅かに和んだ様子で歩みを進めている。
「ずっと緊張しっぱなしってのもどうかと思うからな!」
軽く釘を刺してみたのだが、何故か俺がガジルさんに言い返されてしまった。
「……なあ、レインズ。周囲に魔獣の気配はないんだろう?」
「……獣の気配すらないですね」
「だったら、メリハリをつけるのは悪くないと思う。これから先、もっとヤバい場面が出てくるだろう。その時に緊張し過ぎて疲れていたでは話にならんぞ?」
「それは、そうですが……」
「まあ、デンが行方不明なんだから焦る気持ちは分かる。しかし、お前はあいつの事を信用しているんだろう?」
「……はい」
……確かに、ガジルさんの言う通りかもしれない。
森に入ってそうそうから緊張して、周囲を警戒し、過剰な気配察知まで行っていた。
だからこそ森の状況を把握できたとも言えるが、そのせいで魔獣と対峙した時に実力を発揮できなければ元も子もない。
「それによう、レインズ。今は俺たちだっているんだ。警戒なら交代でやってもいいんだからよ!」
「そうですよ、レインズ! 今はレインズが警戒してくれていたから、今度は私はガジルさんでやりますよ!」
「そういう事だ。俺たちじゃあレインズ程の気配察知はできないから二人掛かりになるが、それでも構わないか?」
二人の配慮に俺は嬉しくなり、そして緊張し過ぎていた自分を諫めた。
「……構いません、ありがとうございます」
「あの、私は何をしましょうか?」
「リムルさんの出番はもう少し先だな。俺たちが怪我をしちまったらよろしく頼むぜ」
「は、はい!」
こういう時、ガジルさんがいてくれて助かったと思える。
35歳になっても自分がまだまだだと実感させられる。単に腕っぷしの実力だけではなく、こういった周りへの気配りや差配も総合的な実力に含まれるんだろう。
俺にはそれが全然足りていないのだと自覚できた。
「……ガジルさん。俺たちがシュティナーザへ行っている間に森の中で大きく変わった事はなかったですか?」
冷静になった俺は、まだ気づけていない事があるかもしれないと思いそう尋ねてみた。
「そうだなぁ……特に変わった様子はなかったはずだ。魔獣もいたし獣だっていた。だが、デンが一人で森の奥へ行ってから変わっちまったんだよな」
「そうですか」
やはり、デンは何かを感じ取り、それを抑え込むために一人で森の奥に向かったのだろう。
しかし、その何かの正体が分からない。まさか、スノウの親であるはずもないし、そもそも親が近くにいたなら卵を置いてどこかへ行くはずもないだろうからな。
考えられる可能性とすれば、新たなSSSランク魔獣が誕生したというものだが、それも限りなく低い可能性である。
何故ならハイオーガエンペラーの時もそうだが生まれたばかりのSSSランク魔獣の実力は同じランクの魔獣と比べて低いものになる。
同じSSSランク魔獣のデンと比べるとその実力差は相当なものがあるはずで、デンが帰ってこられないなんて事にはならないはずなのだ。
「……森の奥に、元からSSSランク魔獣が存在していたのか? もしくは、生まれたてでも相当な実力を持ったSSSランク魔獣が誕生したか?」
唯一の救いと言えば、謎の魔獣がいまだにこちらへ姿を見せていないという事。それは自ずとデンが生きて抑え込んでいると言える……かもしれないからだ。
「ここから先は俺も行った事がない。みんな、ここからは少しばかり警戒を強く持てよ」
思考の海に浸かっていると、ガジルさんからそのように声が聞こえてきた。
……なるほど、ここから先は気配がより一層強く感じられる。ガジルさんやギレインも自分たちではどうしようもないと判断したのだろう。
しばらく進んでいくと、森の様子が徐々に変化していく。
生い茂っていた緑色の世界から枝葉が枯れ落ち、大木がやせ細り、中には折れてしまったものまである。
何者かに荒らされたのか土が捲れ上がった場所まで存在していた。
「……いったい、何があったってんだ?」
「……でも、なんの気配もありませんよ?」
「……スノウちゃん、大丈夫?」
「……ピキャ」
スノウですら先ほどまでの元気がなくなりリムルの腕の中で丸くなっている。
俺は気配察知の範囲は最大限まで広げて探りを入れていく。
「…………奥に、何かいる?」
そう感じた直後――恐ろしいほどの殺気がこちらにぶつけられた。
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