第79話:実技試験
階段を下りると、そこは小さな円形の闘技場のようになっていた。
地面には砂が敷き詰められており、少しだけ踏み込み難くなっている。
他にも厄介なところがないか確認していると、フリックさんが木剣を肩に担ぎながら下りてきた。
「待たせたな」
「そんな事はありませんよ」
「ところで……なんでレミーがいるんだ?」
レミーは本当に有名なようだ。色々なところで声を掛けられている。……まあ、何故いるのかという質問が多いのだが。
「レインズとはちょっとした知り合いだからね。腕は保証するよ」
「レミーが保証するなら確かなんだろうが……キラースキルに甘えているわけじゃないよな?」
先ほど記入した用紙を確認したフリックさんは鋭い視線をこちらに向けてきた。
魔獣キラーは恐らくだが全ての魔獣に効果を発揮する。そのせいで鍛錬を疎かにしていないかと心配されたのだろう。
だが、俺は人を相手にした時にはそこまで強くないと自覚しているので鍛錬は欠かしていない。
「鍛錬は欠かしていませんよ」
「そうか、ならいいんだ。以前にな、キラースキル持ちが対象の魔獣以外にはてんでダメだった事があってよ。ちと心配になったんだ」
頭を掻きながらそう口にしたフリックさんだが、その冒険者はどうなったのだろうか。
「ちなみに、その冒険者は?」
「そんな冒険者が長生きできると思うのか?」
「まさか、死んだんですか?」
「そういう事だ。まあ、そいつも悪かったんだが、組んでいたパーティメンバーも悪かったんだがな」
話を聞くと、どうやらパーティメンバーがキラースキル持ちを過度に保護していたらしい。
対象の魔獣以外はメンバーが排除し、対象の魔獣だけを相手させていた。
死んだ時はたまたまメンバーが討ち漏らした魔獣に襲われてはらわたを喰いちぎられたのだとか。
「パーティ自体はBランクの高ランクパーティだったんだがな。そいつ自身はDランク魔獣を単独で倒せないくらいに弱かったって話だよ」
「……肝に銘じておきます」
「まあ、レインズだったか? お前の場合は魔獣全体に効果を発揮するっぽいから大丈夫だろ」
「魔獣相手なら、ですけどね」
「……そこを理解しているなら、なおさら大丈夫だな」
小さく頷いたフリックさんは、エリカとギースの用紙にも目を通した後に声を張った。
「よーし! それじゃあ実技試験を始めるぞ!」
何をするのかと思えば、至極単純でフリックさんと模擬戦をするだけらしい。
負けたら落とされる、というわけではないらしいが実力が伴わないと判断されれば登録できないようなので全力で当たらなければならない。
まあ、落とされるような奴は本当に稀らしいのだが。
「お、俺からやります! やらせてください!」
「お! 威勢がいいじゃないか。ギースだったか、それじゃあ後ろに各種武器を用意してあるから、好きなものを選んで中央に来い!」
「はい!」
駆け足で武器を選んで戻ってきたギースを見て、俺たちは壁際に移動して見守る事にした。
「そんじゃあ……先手は譲ってやる」
「え? いいんですか?」
「元冒険者だが、これでもAランクまではいったんだぜ? 相手の実力を測る事には慣れてるからな」
「は、はい!」
フリックさんはそう口にしながらも木剣を肩に担いだままだ。
だが……うん、さすがは元Aランク冒険者と言ったところか、全く隙がない。何の策もなく飛び込めば、カウンターの一撃で地面に転がってしまうだろう。
「……くっ」
「なんだ? 来ないのか?」
それでいい。
以前のギースであればそうなっていただろうが、今は違う。
フリックさん程ではないが、ギースも相手の実力を測る事ができるようになってきている。そこから守りを固めて様子を窺い、隙を探っているのだろう。
相手が痺れを切らしてくれればありがたいのだが、今回は相手と状況が悪過ぎたが。
「……ふむ。その年齢でよく鍛えられているようだが、これでは埒が明かないな」
「……ぐぬぬ」
「どれ、俺から行ってやろうか?」
「……ぐぬぬぬぬ」
「それとも、一本受けてやろうか?」
これは真剣勝負ではなく、あくまでも実技試験であり模擬戦だ。
相手が痺れを切らすなんてことはなく、むしろフリックさんの方が上の立場にある。
痺れを切らすのはフリックさんではなく――
「……仕方がない、それなら」
「――今だ! ツインブレイド!」
ギースの方だよなぁ。
飛び込んだギースは隙を見つけたと思っただろう。
だが、それはフリックさんの誘いである。あえて隙を見せて飛びつかせたのだ。
「まだまだ若いな」
「うぇえっ!?」
「背中ががら空きだ」
「ぐえっ!」
一撃必殺を狙ったのだろう、スキルのツインブレイドを放ったギースだったがフリックさんは受ける事もせず、完全に見極めて躱してみせると返す剣で背中を打ち抜いてしまった。
そのまま地面に倒れ込んだギースは苦悶の声を漏らしていた。
「ごほっ! ……ぐおぉぉ、痛いぃぃ」
「実力はまだまだだが、年齢にしては十分だろう。伸びしろもあるし、しっかりと依頼をこなしてゆっくりとランクを上げる事だな」
「あ、ありがどう、ございばず」
木剣を杖代わりにして何とか立ち上がったギースは、ゆっくりとした足取りでこちらに戻ってきた。
「お疲れ」
「手も足も、出ませんでした」
「ギースにしては我慢できたんじゃないか?」
「……もっと、訓練します」
よしよし、その意気だな。
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