第78話:Cランク冒険者と登録
冒険者ギルドに足を踏み入れると、面倒な奴が絡んできた。
「てめぇは!」
「あー……誰でしたっけ?」
「ふざけんな! Cランク冒険者のザック様だよ!」
一応俺は覚えていたが、ぶん投げた張本人であるエリカはすっかり忘れていたようだ。
だが、投げられた方のザックははっきりと覚えていたようで、エリカを見た途端に絡んできたのだ。
「ザック? ……え?」
「て、てめぇ! 居酒屋で俺と戦っただろうが!」
「居酒屋……ああああぁぁっ! あのザコ!」
「ザ、ザコだと!?」
「あー、ごめんね? だって、投げて関節決めたら終わっちゃったから」
申し訳なさそうにそう口にしたエリカだったが、その事実を知らない他の冒険者からはクスクスと笑い声が漏れ聞こえてくる。
それを否定せずに顔を真っ赤にしているザックから、その言葉が事実だと理解してしまったのだろう。
「こ、こいつ……覚えてろよ!」
え……あー……自分の株を下げただけで、飛び出してしまった。
「……ねえ、レインズ。あの人、何をしたかったのかな?」
「……俺に聞くな」
「へぇー! エリカ、ザックをぶっ飛ばしたんだね!」
「凄かったんですよ、レミーさん! あいつ、女将さんにも嫌われていたみたいで、みんな大笑いしてました!」
おや? ギースはいつの間にかレミーを慕っているようだ。冒険者の先輩でAランク冒険者って事で尊敬しているのだろう。
……まあ、ザックの事は解決したとして、俺たちは用事を済ませる事にするか。
「そうだ、レミー」
「何だい、レインズ?」
「……ギルマスには黙っておけよ?」
「わざわざあたいからは言ったりはしないよ。まあ、新規登録者は確認してるだろうし、そのうちバレるよ?」
「バレるまでは平穏に暮らしたいんだよ」
面倒事に突っ込んでいくつもりはないし、身分証が手に入ればそれでいいのだ。
というわけで、俺たちは冒険者登録窓口へ向かう。若い者に紛れて35歳のおじさんが交ざっているのは妙に目立つが、今回は仕方がないだろう。
順番がやって来ると、受付嬢が笑顔で声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ! 本日は冒険者登録……です、よね?」
「……あぁ、そうだ」
「で、ですよね! 失礼しました!」
まあ、若い者を相手にしていていきなりおじさんが現れたら不安にもなるだろう。
「俺とこっちの女性、それとこいつの登録だ」
「三名様の登録ですね。では、こちらにお名前、年齢、得意武器、スキルをお書きください」
用紙が三枚受付に置かれ、俺たちはそれぞれで記入していく。
しかし、スキルか……ギルマスに言ってしまっているし、ここは素直に書くしかないな。
「できたぞ」
「ありがとうございます。では確認を……え?」
ギース、エリカ、最後に俺の用紙を確認した時に驚きの声を漏らした。
「……あの、レインズ様? こちらのスキルは、本当に?」
「あぁ。昨日、ギルマスとも話をしているし、Aランク冒険者のレミーも知っている」
「間違いないよ」
「……かしこまりました。こちらに不備はございません、冒険者ギルドへの登録ありがとうございます」
受付嬢は深々とお辞儀をすると、次の瞬間にはグイっと体を前に出してきた。……ち、近い。
「私、新人冒険者の担当をしておりますチェルシーと申します。有望な方がいましたら専属として依頼を紹介させていただいておりますので、よろしくお願いしますね?」
「ちょっと! あなた、近いですよ!」
「そちらのお二方は登録に際して実技試験がございますので、別の職員がご案内しますねー」
「だから近いってば! ってか、なんでレインズは違うんですか!」
「えぇー? 彼は有望ですから私の一存で合格――痛い!?」
職権乱用もいいところだと思っていると、突如として後ろに現れた人物に拳骨を落とされている。
「い、痛いじゃないですか――フリックさん!」
「お前にそんな権限はないだろうが! というか、新人冒険者には全員実技試験があるだろう!」
「で、でも~」
「あー、すまないな、君たち。俺は実技試験を担当しているフリックって元冒険者だ。将来有望だからって免除はないから、三人ともあっちの階段から下りておいてくれ」
俺よりも年上だろう男性、フリックと呼ばれていたか。彼に会釈をしてから俺たちは示された階段へと歩き出した。
「全く! なんなのよ、あの受付嬢は!」
「あはは! まあ、レインズのスキルは貴重だからね、金を稼げる奴だと思われたんだろうね!」
「なんですかそれ! 本当に信じられない!」
早足で進んでいくエリカと隣を歩くレミーの背中を見ながら、俺はギースに声を掛ける。
「……女って、怖いな」
「……っす」
「……ギースは気を付けろよ?」
「……それ、師匠にそのまま返します」
……こいつも言うようになったな。
まあ、今が人生初めてのモテ期だと思えばいいか。
実技試験という事で、俺は気持ちを切り替えつつ階段を下りていくのだった。
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