閑話:統括長視点
「――……追い払え! さっさと追い払わんか!」
くそっ! くそ、くそっ! どうしてこうなった、私は何を間違えたのだ!
確かに親のコネで就職した仕事だったが、それなりに力を付けて実力で部隊の隊長に任命され、そして兵士を統括する統括長になったのだ!
これからさらに上を目指せるはずだったのに……それなのに、どうして!
「と、統括長! 魔獣が来ます!」
「だから追い払えと言ってるだろうが!」
「違います! 地上ではなく――空からです!」
……は? 空、だと?
「……ほ、本当に……魔獣が、飛んでいるだと?」
「鳥型の魔獣です! 遠距離攻撃のスキルを持つ兵士を集めてください!」
「……」
「と、統括長! お願いします!」
……そんな奴、いるわけがない。
私が管理する兵士は、全てその肉体で戦えるように揃えてある。
そうでないスキルを持っている兵士は別部署に移動させたり、別の都市に飛ばしたり、者によっては解雇している。
空を飛ぶ魔獣など、私は見た事がないのだぞ!
「な、なんとか落とさないか!」
「無理ですよ! 私も戦った事がないのですから!」
「この、役立たずがあっ!」
地上の魔獣には何とか対抗できていた。倒すまではいかなくとも、追い返すくらいはできたはずだ。
だが、空は完全に予想外なのだ!
「……こうなるなら、俺も退職しておくんだったぜ」
「……貴様、この期に及んで何を言い出すか!」
「そうだろうよ! てめえが統括長になってから、俺たちは馬車馬のように働かされてるんだぞ! 人出がいないのに移動させたり飛ばしたり、解雇とかあり得ないだろうが!」
こ、こ奴、ふざけおって! 私の差配は完璧なのだ! 鳥型の魔獣など、見た事もないのだからどうしようもないだろうが!
「この場を乗り切ったら、貴様も飛ばしてやるからな!」
「あぁ、飛ばせよ! その方が俺も生き残れるってもんだ!」
「貴様ああああっ! この場で斬り殺してやろうか!」
「――バードスラッシュ!」
――ズバッ!
『ギギャアアアアッ!』
「矢を放て! 倒せずとも追い返せばよい!」
「「「「「はっ!」」」」」
……な、なんだ? 何が起きたのだ?
突然の遠距離攻撃スキルに、強く放たれていく矢が鳥型魔獣に迫っていく。
『ギャギャ! ギギャアアアアッ!』
「……ぉぉ……ぉおおっ! 逃げ出したぞ!」
どこの誰かは知らないが、これは昇格させて私の護衛として優遇させるべきだな! 兵士でなければ取り立ててやれば恩を売れるというものだ!
「助かったぞ! そなた、名を名乗れ……え……え?」
「ほほう? 我に名を名乗れと申したのか? たかが男爵家の四男が?」
……な、何故、どうしてここにいる? 陛下をお守りするべき貴様が、何故ジラギースの外にいる?
「貴様は――リーネ近衛騎士隊長!」
「……ほほう? 貴様と言ったか? 男爵家如きが、公爵家である私に対して!」
「め、滅相もございません! 無礼な部下との門答のせいで口が悪くなってしまいました!」
くそっ! 女の分際で公爵家だからと近衛騎士に取り立てられおって、気に食わんぞ!
「それで、これはどういう状況なのか説明してもらえるかな?」
「は、はい! 地上の魔獣に対しては対応ができていたのですが、突如として空を飛ぶ魔獣が現れて対応に苦慮しておりました!」
「遠距離攻撃スキル持ちで対応すればいい事でしょう?」
「そ、それが……」
「なんだ、どうした?」
くっ、偉そうにしおって! こちらの都合も知らんでからに!
「無礼を承知で申し上げます! 統括長のせいで遠距離攻撃スキル持ちが部署移動や地方に飛ばされてしまい、それ以外は退職を促されて人手不足が深刻になっております!」
「き、貴様! 嘘を言うな!」
「本当の事だろうが! てめえのせいでこうなった事、いい加減認めろよ!」
こいつ、先に切り殺しておくべきだったか!
「……それは本当か? 統括長?」
「い、いえ! 事実ではありません! こいつは魔獣の襲撃でパニックとなり、気が動転しているのですよ!」
「それはてめえの方だろうが! 空を飛ぶ魔獣がいる事なんて普通に考えたら分かる事だ! 近衛騎士隊長様! 私の言っている事が事実です! 嘘をついていると思われるなら、私はこの場で首を切っても構いません! その覚悟で進言いたしました!」
「だ、黙らんか! 貴様が首を切らずとも、私が貴様の首を切って――」
「黙れ」
そうだ、儂は男爵家とはいえ貴族! どこの馬の骨とも知れない貴様の言葉など誰が聞くか!
「そうだ! 黙って私に切られれば――」
「黙れと言っている、統括長!」
「……は?」
「貴様の身勝手な所業は陛下に報告させてもらう! 追って沙汰が下るだろう、それまでは自宅待機していろ!」
「そ、そんな! 私は何も悪くない!」
「黙れ! ならば、その者の名前を言ってみろ。貴様の部下ならばもちろん、覚えているのだろう?」
くっ! こ、こんな平民の顔など、覚えているわけがなかろうが!
「……言えないか? 彼の名前はアクト・フィンネリン。フィンネリン伯爵家の三男だぞ?」
「…………は? こ、こんな小童が、伯爵家?」
「覚えておいででしたか、リーネ様」
「当然だ。あなたを近衛隊に推薦しようと思っていたくらいだからな。……っと、まずはこの状況を打破するべきか。指揮はアクト、あなたに一任しても?」
「はっ! 私のスキルを使い、魔獣を追い払いたいと思います!」
……こ、こいつらは、何を言っているのだ? 私が統括長であり、指揮官なのだぞ?
「ま、待て。私が、私が指揮官で――ぐげっ!?」
「何度も言ったはずだ、黙れと」
……殴られた……私が……貴族である、私が……。
「……ど……どうして……こうなったのだ…………」
結局、アクトとかいう小童が指揮した部隊が魔獣を追い払った。……被害を最小限にして。
「…………何を……間違えたのだ……」
……素直に、屋敷に戻るしかないのか。
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