第63話:キラー系スキルの貴重性

 それからの話を聞いていくと、なるほどという感じでキラー系スキルが貴重なのだと知る事ができた。

 なんでも、貴重な素材というのは往々にして強い魔獣の素材でもあり、それを討伐できる実力の持ち主は少ないのだとか。


「シュティナーザは大きな都市ですが、それでもいないんですか?」

「いいや、いるにはいるが費用が掛かるんだよ」

「費用?」

「依頼料だね。冒険者ギルドに依頼をするんだよ」


 冒険者か。

 確か、レミーがそんな職業だったか。


「冒険者というのはどういう仕事なんですか?」

「簡単に言えば何でも屋かな。依頼を出して、その依頼を受けてもいいと思えば受けてくれるんだ」

「受けてくれるって……それじゃあ、依頼を出しても受けてもらえない場合もあるって事ですか?」

「そうだね。だから、あまりに実入りが少ない依頼だったり、身の丈に合わない依頼はずっと残ってしまう事もある。冒険者ギルドの職員が依頼を受け付ける時に弾いてくれる事が多いんだけど、それでも残る物は残ってしまうかな」


 強い魔獣の素材を希望する依頼は結構あるらしい。この場合、実入りはいいのだが身の丈に合わない事が多いので残ってしまうのだとか。


「キラー系スキル持ちでなければ倒せず、逆に殺されてしまう可能性もあるから残ってしまうんだよ」

「そうなんですね」

「ちなみに、レインズさんは冒険者ギルドに登録する予定はあるんですか?」

「いいえ。その予定はないですね」

「そうなんですか?」


 即答すると、何故かルシウス様……じゃないか。ルシウスさんに驚かれてしまう。


「はい。俺は護衛で来ただけですし、ウラナワ村に冒険者ギルドはありませんからね」

「そうなんですね。……もったいない」


 ぼそりとそんな事を呟いていたが、意味のない事はしない方がいい。

 俺は冒険者ギルドの仕組みを全く理解していないし、登録した事で仕組みに従い何かに巻き込まれる可能性も無きにしも非ずだ。


「……いや、レインズ君。登録した方がいいかもしれませんよ?」


 だが、俺に冒険者ギルドへの登録を勧めてきたのはヒロさんだった。


「そうなんですか?」

「冒険者ギルドに登録すれば、そのギルドカードが身分証になるんですよ。これは、冒険者ギルドの支部がない都市でも同様です。まあ、入場料を取っている都市には基本的に支部は設置されていますけどね」

「入場料を取っている都市に行く時、無駄なお金を払う必要が無くなるってことですね」

「そうです。それに、レインズ君なら討伐系の依頼も問題なくこなせそうですし、失効する事もないでしょう」

「失効するんですか?」


 身分を保証する代わりに、登録し続けるにも条件があるのだとか。

 継続するのに絶対必要となるのは、一番最近の依頼達成から一年以内に別の依頼を達成する事。

 冒険者ギルドへの登録は実力が伴えば意外と簡単らしく、身分証代わりに登録を行う人は多いようだ。

 だが、一年以内で依頼達成がなければ自動的に失効してしまい、その情報は冒険者ギルド全体に共有される。

 そして、再登録するには一年以上の期間が必要となり、期間を空けたとしても再登録には厳しい条件を突き付けられる事が多いという。


「さすがに再登録の条件まではわかりませんが、大体はこんな感じですね」

「補足で言いますと、犯罪を犯したりすれば普通に失効して、さらに永久に再登録はできなくなりますよ」


 ヒロさんとルシウスさんの説明を聞きながら、一年以内に一つの依頼を達成するという事であれば問題はないかもしれない。


「ヒロさんがシュティナーザに商談へ訪れる頻度ってどれくらいなんですか?」

「半年に一回ですね。商品の出来によっては多少前後しますが、一年に二回は最低でも訪れますよ」


 それなら登録をしても失効する事もなさそうかな。


「……分かりました。それなら、登録しておきます」


 仮に失効したとしても俺の生活に問題はない。

 基本的にはウラナワ村の門番だし、シュティナーザの入場料はヒロさんがいれば1000リーグだから負担にもならない。

 まあ、シュティナーザに寄った時に小遣い稼ぎができればと考えれば登録もありだと考えた。


「そうですか! でしたら、早速お願いしたい素材がありまして――」

「おいおい、ルシウス。レインズ君が登録したとしてもFランクだろう。君が求める素材はBランクやAランクでようやく討伐できるような魔獣のものだろう?」

「うっ! ……まあ、そうですね」

「そんなもの、いくら実力を保証すると言っても冒険者ギルドが許してくれないよ」

「……そうですね」


 俺の理解が及ばないところで二人が勝手に話を進めて行く。

 ……これ、やっぱり登録しない方がいいんじゃないのか?


「と、とりあえず、商談を進めたどうですか?」

「「あっ! そうだった!」」


 まさか、本来の目的を忘れているとは思わなかった。

 その後、ヒロさんの革製品の商談がようやく始まり、30分も掛からず終了してしまった。

 ……雑談の方が時間が長かったなんて、ありなのか?

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