第62話:ルシウス・バルスタッド

 建物の中は俺が今まで見た事のない豪華な造りになっていた。

 天井からはシャンデリアがぶら下がり、壁には装飾が施されており、さらに絵画が掛けられている。

 さらに煌びやかな装飾が施された壺や皿なども飾られており、一つでも割ってしまったら俺は奴隷落ちするかもしれない。

 それだけではなく床には真っ赤な絨毯が敷かれており、俺の靴で踏んでしまってもいいのかと不安に思ってしまった。


「お待ちしておりました、ヒロ様!」


 そんな事を考えていると、階段の上の方から一人の人物が姿を現した。


「久しぶりだね、ルシウス」

「本当ですよ! もっと顔を出してくれてもいいじゃないですか!」

「私はもう60歳手前だよ? そう何度も足を運ぶのは厳しいですね」


 ……ヒロさん、貴族からも様付けで呼ばれている。しかも、タメ口だ。

 もしかして、ヒロさん自身が貴族なんてこともあるんだろうか。


「そうそう、こちらはウラナワ村に移住してきてくれたレインズ君だよ」

「……」

「レインズ君?」

「え? あ、すみません!」

「ははは。まあ、驚きますよね。ご説明も必要だと思いますが、立ち話もなんですし、応接室にご案内いたします」

「……は、はい」


 ルシウス様はそう告げると、一階にある一室に案内してくれた。

 使用人もいるはずだが、自らがお茶を入れている。


「……あ、あの、ヒロさん?」

「どうしましたか?」

「その、ルシウス様とはどのようなご関係なんですか?」

「うーん、関係と言われましても、昔からの友人といった感じでしょうか?」

「ははは! それは違いますよ、レインズさん」


 ヒロさんの言葉を否定したのはお茶を運んできたルシウス様だった。


「ヒロ様は私の師匠なんです」

「師匠、ですか?」

「はい。革製品の職人としての師匠であり、商会長としての師匠でもあります」

「……商会長?」


 革製品の師匠というのはわかる。ヒロさんは凄腕の職人のようだから。

 だが、商会長の師匠というのはどういう事だろうか。よろず屋を営んでいるけど、それ以上ではなさそうだが。


「ヒロ様は凄腕の革職人であり、王都で一財産を築いた凄腕の商人でもあるんですよ」

「えっ! そ、そうだったんですか!」

「ふふふ。とはいえ、すでに全ての財産を使い切っていますから、今ではただの田舎のよろず屋ですよ」

「ですが、こうして革製品を私の商会に卸してくれるのはありがたい事ですけどね」

「小銭稼ぎにはちょうどいいですから」


 そう口にしたヒロさんがお茶をすする。

 ……いやいや、師弟関係だとしても貴族相手に小銭稼ぎは言い過ぎじゃないか?


「全く。ヒロ様がその気になれば、再び一財産を築くのも簡単でしょうに」

「余生を楽しむと決めたものでね。そのような野望は持っていませんよ」


 これ、俺がいる必要あっただろうか。エリカたちと一緒にいた方がよかったかもしれないな。


「そうそう、レインズ君を紹介しようと思っていたんですよ」

「……はい?」


 ここで突然俺の名前が出てきて驚いたのは仕方がないだろう。


「先ほど自己紹介は済ませましたけど?」

「ヒロ様がわざわざ紹介ですか……レインズさんは、相当な凄腕なんですね」

「はい。そのおかげで三ヶ月ほど前は助けられました。私も、ウラナワ村のみんなもね」

「それは! ……そうでしたか。レインズさん、ヒロ様を救っていただきありがとうございます」

「え? いや、その、話の流れが全くわからない……わかりません」

「ははは。私に対してもヒロ様と同じような言葉遣いでお願いしますよ」

「いやいや! さすがに貴族の方に軽い口調では話せません!」


 俺の言葉を受けると、ルシウス様は苦笑しながら自分の事を語り始めた。


「貴族と言っても、私の場合は一代貴族なんだよ」

「そうなんですか?」

「あぁ。一代でバルスタッド商会を立ち上げて、多くのお金を税として国に納めた結果で与えられた地位なんだ。だから、元は平民なんだ」

「そうだったんですね。ですが、だからと言って軽い口調で話をするのは」


 一代貴族とはいえ、貴族は貴族だ。

 国から与えられた地位だからこそ、重みがあると俺は思う。


「でも、ヒロ様には普通に話をしていて、その弟子である私に敬語というのは……」

「私からもお願いします。ルシウスは堅苦しいのが苦手な人なんですよ」

「それはヒロ様も同じでしょうに」


 そもそも、ここには商談で訪れたはずだろうに、俺を紹介とはどういう事だろうか。

 だが、その答えに関しても俺が折れなければ答えてくれなさそうだ。

 まあ、俺も堅苦しいのは苦手だし、渡りに船とでも思っておこうか。


「……わかりました。普段通りに話をするって事でいいですか?」

「えぇ、それで構いません」


 俺の答えにニコリと笑ったルシウス様……えっと、この場合はルシウスさんでいいのか? まあ、どちらにしても対面に腰掛ける。


「それで、どうして俺を紹介するなんて流れに?」

「レインズ君のスキルが貴重なスキルだからですよ」

「俺のスキルって、魔獣キラーですか?」

「ほほうっ! キラー系スキルですか!」


 ……おいおい、いったいどんな流れなんだよ。マジで意味がわからないんだが。

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