第60話:大都市シュティナーザ
その後の道中は魔獣との遭遇もなく、途中の宿場町に泊まりながら三日目に入り――俺たちは大都市シュティナーザに到着した。
「これは、壮観だなぁ」
「ジラギースと同じくらいありますかね? ……本当に凄いなぁ」
エリカの言葉には驚きと共に、自分たちがどれだけ小さな世界にいたのかという思いも含まれているようだった。
ジラギースはジーラギ国の王都である。その王都と同じくらい、もしかするとそれ以上に広大な都市がサクラハナ国では王都ではなく一都市なのだ。
エリカだけではなく、内心では俺も驚いている。
何故なら、サクラハナ国は島国だ。ならば、大陸に存在する国はシュティナーザ以上に広大な都市が多く存在するという事だろう。
「外壁も高いなあ!」
「あっ! それは私も思ったよ、ギース君!」
「シュティナーザは多くの技術が集まった都市ですからね。その技術があらゆるところに活かされているのですよ」
ヒロさんの言葉には納得せざるを得ない。
石積みの外壁だが、それが5メートル近い高さまで積み上げられている。
これだけの高さまで積み上げるのには相当な技術が必要になるだろうし、俺の知らない技術が使われている可能性も少なくない。
「やっぱり、世界は広いなぁ」
そんな事を考えながら馬車を進めて入場を待つ列に並ぶ。
「レインズ君とエリカ君は身分証をお持ちですか?」
「「……え?」」
だが、ヒロさんからの唐突な質問に俺とエリカは同時に声を漏らした。
「その様子では、お持ちでないようですね」
「そ、そうですね。サクラハナ国に来てからすぐにウラナワ村を訪れましたから」
「私もです! ……どうしましょう」
「二人とも、ご安心ください。身分証がなければ入場料を支払って入場する事になります」
入場料は1000リーグ。これは身分証を持っている人がいた場合の金額らしく、個人で身分証を持たない人が入場する場合はもう少し掛かるらしい。
「途中の宿場町では取られなかったですよね?」
「大都市となれば都市の運営に多額の資金が使われますからね。入場料は門番の給金や都市運営に使われるのですよ」
個人でお金を回せるところと、回せないところの差といった感じか。
ちなみに、成人男性の平均的な一ヶ月分の給金は20万リーグらしく、普通に働いている人であればそれほど高い金額ではない。
俺はウラナワ村で手にした給金をほとんど使っていなかったので、支払いは全く問題なかった。
「ただし、門番が怪しいと判断した相手にはチェックが入りますから、犯罪者が間違って入場する事は少ないそうです」
「色々とあるんだな」
ジラギースでは目視と言うか、完全に門番の判断に任されていたから大変だった。何せ王都だ、人の往来も多かったからな。
それにもかかわらず問題のある人物を入場させたら門番が処罰されるのだから堪ったものではない。
……まあ、俺ばかりがなすりつけられていたからそう考えるのも仕方ないんだろうな。エリカからは特にそんな意見は聞かなかったし。
そう考えると、内にこもる国民性を持ったジーラギ国は損しかしていない気がする。
どのようなチェックが行われるかはわからないが、他国の技術を取り込めたならもっと楽に仕事もできただろう。
「そろそろ私たちの順番ですね」
馬車を進めて行くと、門番に止められる。
「お久しぶりです」
「おぉっ! ヒロ様ではないですか! 今日は商談ですか?」
「えぇ。それと、ウラナワ村に移住してきた方もいまして、二人分の入場料をお支払いします」
ヒロさんの言葉に合わせて俺とエリカが顔を見せる。
「そうでしたか! いやー、正直に言うと、あのような辺境の村に移住者なんてと思ったものですが……本当によかったですね、ヒロ様!」
「そうですね。こちら、2000リーグです」
「え? あの、ヒロさん。俺たち支払えますよ?」
はっきり口にする門番だなと思っている横で、ヒロさんが二人分の入場料を支払ってしまった。
慌てて声を掛けたのだが、ヒロさんは笑みを浮かべながら右手で制してきた。
「構いませんよ。護衛をお願いしたのはこちらですし、元々入場料は準備していましたから」
「……ありがとうございます」
「ねえねえ、ヒロさん。門番の方からヒロ
エリカの質問にヒロさんは苦笑しながら答えてくれた。
「有名人というわけではないですが、シュティナーザで暮らす準男爵と知り合いというだけですよ」
「貴族様と知り合いなんですか! ……ヒロさん、どうしてウラナワ村で暮らしているんですか?」
「ウラナワ村は私の故郷ですからね。余生を楽しむなら、故郷の方がいいでしょう?」
俺もエリカと同意見だったが、余生を楽しむとか言われると何も言えなくなる。
だが、余生と口にするにはまだ早いと思う。今だって長旅をしながらシュティナーザまでやって来ているわけで、足の怪我はあるものの元気である事に変わりはないはずだしな。
「よし! 確かに2000リーグですね! それじゃあどうぞ! ルシウス様もヒロ様との再会を楽しみにしていましたよ!」
門番の方から笑顔で手を振られながら、俺は馬車をシュティナーザに入場させた。
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