第57話:見送り

 それから三日が経ち、俺たちはウラナワ村を出発する事になった。

 移動は馬車となり、御者は俺とエリカが交代で行う事になる。

 村の門に向かうと、そこには見送りなのか複数の人影が見えた。


「わざわざ見送りですか?」

「べ、別にいいじゃないですか!」

「別にいなくなるわけじゃないのに、大げさだろう」

「もう! レインズはリムルに酷くないかな!」


 リムルが頬を膨らませていると、エリカが俺に怒鳴ってきた。

 ……この二人、いつの間にこんな仲良くなったんだろうか。


「いや、別に酷くはないだろう。別に村を出て行くわけでもあるまいし」


 ジラギースからの見送りとはわけが違うんだからな。


「もういいですよ! 後は任せてちょうだいね、リムル!」

「よろしくお願いします、エリカ!」


 おぉ、呼び捨てでも問題ない仲なんだな。……マジで何があったんだよ、この二人に。


「それで、ギレインとガジルさんも見送りですか?」

「まあな! 美味い酒、金に余裕があったらでいいから頼むな?」

「メリースさんにまた怒られますよ?」

「そ、そこは内緒で頼む!」

「ギレインもそこまでにしたらどうですか? レインズも遊びに行くわけじゃないんだし」

「そ、そりゃあそうだが……はぁ。美味い酒、飲みたかったぜぇ」


 わざわざ見送りに来て落ち込むとか、どれだけ酒が飲みたかったのかよ。


「……おい、レインズ」


 背中を丸めているギレインに聞こえないようにか、ガジルさんが小さな声で呼ぶと手招きをしている。


「……どうしたんですか?」

「……どうせお前の事だ。何か買ってくるつもりだと思うが、普通のにしておけよ?」

「……バレてましたか。でも、普通のってのは?」


 買ってくる事自体はいいとしても、何故普通のなんだろうか。どうせなら良い酒の方がいいんじゃないかと思う。


「……安い酒を飲めなくなったら、お前までメリースに怒られるぞ?」


 ……あー、それだけは勘弁だわ。怒った時のメリースさん、マジで怖いし。


「……わかりました。そうしておきます」


 俺が頷いたからか、ガジルさんは快活に笑って激励の言葉を掛けてくれた。


「お前の事だから心配はしてないが、気をつけていってこいよ!」

「ありがとうございます」


 ガジルさんと拳をぶつけ合うと、最後にデンに声を掛ける。


「デンもありがとな」

「レインズの頼みだからな。本当は残りたくないが、仕方なく、渋々、本当に嫌々だが、残ってやる」

「そ、そんなに嫌なのか?」


 根に持っているような感じで言われてしまい、さすがに俺も気を遣ってしまう。


「……冗談だ。だが、土産は忘れるでないぞ?」

「わかってるよ」

「美味い魔獣の肉だ。大量にな。わかったか?」

「美味いかどうかはわからんが、オーガ以外で魔獣と遭遇したらヒロさんに頼んでおくよ」

「それでいい。……ウラナワ村の事は我に任せておけ」

「……頼む」


 何もないに越した事はないが、何かあった時の備えだけはしておくべきだ。

 デンが残る事についてはギレインとガジルさんにも説明済みで、本当に危ないと思ったら助けてもらうよう伝えている。

 俺としても心置きなく出発できるのでありがたい限りだ。


「レインズ君。そろそろ出発しましょう」

「わかりました。それじゃあ、また二週間後!」

「いってらっしゃい! 気をつけてくださいね!」


 リムルは馬車が見えなくなるまで手を振ってくれた。

 デンも遠吠えをあげて俺たちの無事を祈ってくれている。


「まあ、道中はそこまで危険な事もありませんし、一応の護衛ですから大丈夫ですよ」

「そうよそうよー。まあ、私は行った事ないからわかんないけど」

「そういえば、バージルも初めてなんだよな?」

「えぇ、そうよ。鍛冶は死んだ父さんに教えてもらっただけで、死んじゃってからは独学だったのよ」

「死んだって……魔獣にか?」

「ウラナワ村ではそう珍しい事ではありません。私の足も魔獣にやられたものですしね」


 何気ない会話のつもりだったが、俺はウラナワ村の住民についてまだまだ知らない事が多いんだと気づかされた。


「リムルの両親もそうだったか」

「だから、念のために護衛は必要なんですよ」

「魔獣が出てきたらよろしくね、レインズにエリカちゃん!」

「任せてください! ね、レインズ!」

「お、おう、そうだな」


 ……何だろう。エリカにはああ言ったが、レインズと呼ばれるのに慣れていないからか、気恥ずかしくなってしまう。

 それに、エリカも何だか名前を強調して呼んでいるように聞こえなくもないが、気のせいだろうか。


「ねえねえ、レインズ! そろそろ森を抜けますよ! ほら、レインズ!」

「わかったし、聞こえているからそう何度も名前を呼ぶな!」

「いいじゃないですか! ほら、レインズも前に来てよ!」

「……はぁ。わかった、わかったよ!」


 シュティナーザまでの道中、もしかしてずっとこの調子なんだろうか。……先が思いやられるぞ、これは。


 ――ガタガタ。


 ……ん? 今の音はなんだ?


◆◆◆◆

 大変急ではございますが、本日以降の更新は二日に一回となります。

 これは、カクヨムコン6の読者選考期間が昨日までとなり、以降は余裕を持った更新を行うためです。

 他作品の更新もあるのと、『門番解雇』をより良い作品に仕上げるためでもあります。

 お楽しみいただいている読者様には申し訳ないと思いますが、もしよろしければこれからもお付き合いいただければと思います。

◆◆◆◆

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