第56話:デンとの会話
シュティナーザへ出発する準備をするために俺は家に戻る。
そこへちょうどデンが返って来た。
「む、遅かったな」
「色々と立て込んでしまってな」
「聞いた話だが、別の都市に行くのだろう?」
「あぁ。まあ、ヒロさんとバージルの護衛だがな」
俺は今までの経緯をデンに説明する。
最初は頷きながら聞いていたデンだったが、途中から呆れたような表情で俺を見始めた。
特におかしな話はしていないはずなのだが。
「なんだ、どうしたんだ?」
「……お主、本気でわかっていないのか?」
「何がだ?」
「……はぁ。本当にお主は鈍感が過ぎるな」
なんだかものすごく失礼な物言いだが、デンのこの態度は慣れたものなので気にしない方がいいだろう。
「まあ、我もサクラハナ国の魔獣には興味がある。ここで一度、村の外を見てみるのもいいかもしれんな」
「あー……すまん、その事なんだが」
「なんだ、どうした?」
楽しみにしているところ申し訳ないのだが……まあ、はっきり言っておいた方がいいだろう。
「デン、お前はウラナワ村に残ってくれ」
「んなあっ!? お主、何を言っているのだ!」
「そのままの意味だよ。俺がいない間、ウラナワ村をお前に守って欲しいんだ」
これは最初から考えていた事だ。
そもそも、デンがいるなら非戦闘員が二人になっても問題はなかったが、残すつもりだったから別の護衛を探していたのだ。
「わ、我がサクラハナ国の魔獣に興味を抱いている事を知っているであろう! それなのにどうして!」
「わかってる。……わかっているが、またハイオーガエンペラーの時みたいな事が起きないとも限らない。ここは、魔獣が発生する場所みたいだからな」
ウラナワ村の奥に存在する森は、ジラギースから南に位置しているジストの森と似た感覚がある。
魔獣が定期的に発生し、討伐が遅れれば一気に溢れ出す。
「ハイオーガエンペラーはイレギュラー中のイレギュラーだろうが、一度起きたなら、二度目がないとも限らない。ガジルさんもいるし、自警団も強くはなっているが、まだSランク魔獣にも及ばないんだ。SSSランクなんて出てきたら、ウラナワ村は一瞬で滅ぶぞ」
「それはそうだろうな。だが、それが我をここに留める理由にはならんだろう」
「ここは俺が戻ってくる場所だ。そこをデンに守ってもらいたい。十分な理由じゃないか? デンは俺の従魔なんだからな」
俺はデンとできる限り対等な関係でいようと思っている。
その事をデンにも話しているし、理解してもらってもいる。
だが、俺が本当に望む事に関しては主と従魔という関係を使ってもいいともデンからは言われていた。
これが戦って敗れたデンなりのけじめなんだろうとわかっていても、俺は今まで一度も主と従魔という関係で命令を下したことはなかった。
「……お主はそこまでして、ウラナワ村を守りたいのか?」
「あぁ。さっきも言ったが、ここは俺が戻ってくる場所だ。戻ってみたら何もなくなっていたなんて、考えたくもないからな」
「そうか。……仕方がない、ならば従うとするか」
「すまないな、デン」
拗ねて寝そべってしまったデンの頭を優しく撫でる。この美しい毛並みとも、しばらくはお別れになるのか。
「もっと撫でておけよ? 何なら、毛繕いもしてくれて構わないからな?」
「そうだな。出発まで、存分にデンの毛並みを堪能しておくとするよ」
「そうしろ。……土産を楽しみにしておるからな」
デンの説得にも何とか成功し、俺はしばらく頭を撫で続けた。
その後は準備に専念したのだが、すっかり忘れていた事がある。
「……同行、許してもらえませんでした~!」
「……あー、そうか。残念だったな」
「どうして私だけダメなんですか! バージルさんは問題なくて、どうして私だけ!」
リムルが泣きながら家に駆けこんできたのだ。
訪ねて来るのはいいんだが、いきなり入ってくるのは遠慮して欲しい。裸だったらどうするつもりなんだよ。
「バージルは仕事の都合だからな。……そうだ、ずっと聞きたかったんだが、リムルはどうして一緒に行きたかったんだ? 理由によっては許可されたかもしれないだろうに」
「うっ! ……そ、それは」
……何だろう、ものすごく言い難そうにしているんだが。
「……もしかして、ただ単に外に出たかったとか?」
「ち、違いますよ!」
「じゃあ何なんだ? ちゃんとした理由があるんだろう?」
「い、言えませんよ!」
「ちゃんとした理由じゃないのか?」
「ちゃんとした理由ですけど、レインズさんには言えませんってば!」
……もういいか。
「とにかく、ヒロさんに断られたなら仕方ないだろう。それに、リムルは移住者探しで村を離れている期間もあったんだ。三ヶ月経ってはいるが、もう少しゆっくりした方がいいんじゃないか」
リムルのおかげでウラナワ村には三人の移住者がやって来たんだ。
またすぐに村を離れるよりかは、ゆっくり体を休めて交流を深めた方がいいに決まっている。
「……レ、レインズさんのバカ~!」
何故か暴言を吐かれてしまった俺は、そのまま走り去っていくリムルを見送る事しかできなかった。
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